功名が辻〈1〉
土佐藩24万国の開祖となった山内一豊(通称:伊右衛門)の生涯を描いた司馬遼太郎氏の長編小説です。
信長・秀吉・家康と3人の天下人に仕え、わずか50石の貧乏侍から大名へと昇り詰めた"わらしべ長者"の物語といってもよいかも知れません。
この3人に仕えて生き延びた大名は稀であり、伊右衛門が有能であれば50万石以上の大名になっても不思議ではありません。
それが24万石であることを考えると、伊右衛門の武将としての能力は決して高くなかったことを意味しています。
しかし無能な武将であれば出世どころか、戦場で討ち死にするか、仕える主人を誤って共に破滅する道を辿ったはずです。
彼は律儀・正直者といった性格を評価されており、究極の個人主義が主流だった戦国時代に珍しい存在でした。
そして何よりも秀吉の死後、いち早く徳川家康に乗り換えたという経歴に代表される通り、「時勢を見誤まらない能力」が立身出世の最大の要因です。
伊右衛門よりも武勇・智謀に優れた数多の武将たちが次々と消えていったことを考えると、乱世を生き残る能力にかけては、石田三成、真田幸村などよりも有能だったという評価さえできます。
ただしそれさえも伊右衛門を評価する声よりも、この物語のもう1人の主人公、つまり妻の千代の内助の功であったとするのが定説です。
つまり正直・律義だけが取り柄の武将とその賢妻が二人三脚でしたたかに戦国乱世を生き抜く長編小説です。