逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録
殺人容疑で逃亡を計り、連日報道を賑わせた市橋達也。
タイトル通り、本書は市橋達也自身が2年7ヶ月に及ぶ逃亡生活の記録を出版したものです。
自宅のマンションから警官を振り切って逃げ、全国を徘徊、そして四国のお遍路、沖縄での無人島生活、建設会社で住み込みで働いていた経緯が淡々と書かれています。
市橋自身に自首という選択肢は無かったようであり、身元が明らかになる危険性が少しであると姿をくらますといった張り詰めた日常を過ごしてゆきます。
時には寒さや飢えに耐えるといった生活が続き、本人曰く「懺悔の気持ちを抱きながらの逃避行」だったこともあり、惨めな生活であったかも知れません。
しかし一方で両親をはじめとした家族、そして自身の過去に触れている箇所は皆無であり、犯行動機や犯行場面の描写もありません。
つまり本書がどこまで信憑性を持つかは微妙なものであり、本書に書かれている内容が事実であったとしても表面上のものであり、彼が心の中を余すこと無く暴露した本とは言い難いものです。
指名手配されていた市橋は、いつ逮捕されるかという恐怖、そして日々の糧を得るための手段を求めることに精一杯であり、それによって自らの罪悪感と向き合うことを避けていたという見方もできます。
自らの逃亡生活を描いているにも関わらず本書は主観性のない淡白なものであり、だからこそ出版という形を取れたのかも知れません。
このような"淡白さ"の中にこそ、彼が犯罪に至った本質があるように思えてなりません。