水滸伝 18 乾坤の章
最強の敵、童貫と戦いを繰り広げる梁山泊軍。
天才的な戦の才能と数的優位さを持つ童貫軍を相手に、梁山泊の好漢たちが次々と斃れてゆきます。
梁山泊の中枢部には幹部が重要な決定を行う場として、聚義庁(しゅうぎちょう)と呼ばれる建物があります。
そこには108人の好漢の名札が壁に掲げられていて、死んだ好漢の名札は裏返されて、赤い文字で表されるのです。
これだけの長編になると、読者それぞれに愛着のある好漢が出てきますが、童貫軍と激突するたびに非情なまでに彼らの名前が次々と赤くなってゆきます。
物語の大きな山場を迎えているという実感と共に、もうすぐ「北方水滸伝」の幕が閉じるという哀愁が漂ってきます。
一方で、こうしたシーンを描く北方氏の心境も気になってしまいます。
これだけの長編大作を執筆し続けた作家だからこそ、登場する梁山泊の好漢たち1人1人に誰よりも愛着があるのではないでしょうか。
ただし個性的で愛すべき好漢たちが苦難を乗り越えながらも、最後には宋を打倒して志を達成するストーリーだとしたら、どうでしょう?
おそらく「水滸伝」は少年・少女向けの(お伽話という意味での)ファンタジー小説でしかなく、私もこの作品をそれほど好きになれなかったでしょう。
昨日まで将来の夢を語り合った仲間が、次の日には簡単に命を落としてしまう。
それは抱いた志が困難で大きいほど、まして宋という巨大な国家を打倒することを目指すのであれば、むしろ当然のように払うべき犠牲なのかも知れません。
北方氏はフィクションの世界を通じて、よりリアルでシビアな男たちの物語を描こうとしたと思えてなりません。