春を背負って
文庫本裏に書かれた"心癒される山岳小説の新境地"という説明だけを見て思わず購入してしまった1冊です。
というのも、過去に山岳小説の草分けである新田次郎氏の作品を読み漁った時期があり、今でも年に数回は山歩きをするぼど影響を受けたからです(もっとも冬山登山やクライミングをするほどの気概はなく、近場の山へ日帰りで出かける程度ですが。。)。
物語は脱サラをして、亡くなった父親の山小屋の跡を継いだ享(とおる)という若者を主人公を中心として繰り広げられます。
奥秩父にある甲武信ヶ岳と国師ヶ岳との間にある梓小屋という架空の山小屋が舞台になります。
たとえばヒマラヤ、北アルプスといったあたりが山岳小説の定番ですが、その中で奥秩父は渋い場所です。
舞台や主要な登場人物は統一されていますが、そんな自然の雄大さを背景にした心温まる人間ドラマが短篇という形で六編収められています。
「山の清らかな空気が、都会の慌ただしい時間の流れを忘れさせ、時には人生に疲れた人の心さえも癒してゆく」
文章で書くとベタですが、どこか鄙びた奥秩父の自然の中で人間が少しずつ成長してゆくというのが大きな骨格になっています。
ストーリー自体は比較的素直に作られているため、山岳小説がはじめての人でも抵抗なく読めるのではないでしょうか。
6月には本書を原作とした映画も公開されるようですが、確かに映像化しやすい作品かも知れません。
ちなみに関東の山といえども、その自然の厳しさは決して侮れません。
ブームや小説に感化されたという理由だけで無計画に登山を行うのはあまりに危険であり、充分な準備が必要です。
登山をはじめる前には、当ブログで紹介した「山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か 」などの実用書も併せて読むことをお薦めします。