レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

アフリカの蹄

アフリカの蹄 (講談社文庫)

帚木蓬生氏のサスペンス作品です。

主人公はアフリカ最大の医療研究所へ心臓外科医として勤務している日本人医師・作田信。

ある日、近くの黒人居住区の間で突如奇妙な発疹が流行り出す。

その正体は絶滅したはずの天然痘であり、その裏には巨大な陰謀が存在するのであった。。。

そして日本人医師・作田はその陰謀へ立ち向かうことを決意するのであった。

導入部のあらすじは大体こんな感じですが、著者が本書で取り上げているテーマは明確です。

それは南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)であり、白人優位の社会政策によって虐げられる黒人たちに焦点を当てています。

そこにジェノサイドホロコーストといった要素を入れることによって、スケールの大きなサスペンス作品としての背景を構成しています。

本来であれば、こうした巨大な陰謀に立ち向かうのは特殊な戦闘訓練を受けた兵士やスパイといった主人公が相応しいのですが、武器すら持たない"一介の日本人医師"であるというのが、箒木氏らしい設定です。

もちろん著者自身の職業が"医師"であることも関係していますが、そこには"暴力"へ対しては"非暴力"で抗議するといったメッセージも込められています。

本作品が発表されたのたは1992年であり、著者が意欲的に長編サスペンス作品を描き続けた時期であることから"勢い"を感じます。

それでも安易にスリルを求めず、世界中に根強く残る人種差別といった重く深いテーマを掘り下げてる部分は、著者個人の道徳観、そして自身の職業である医師としての良心が垣間見ることができます。