レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

サロメの乳母の話

サロメの乳母の話 (新潮文庫)

本書は塩野七生氏による歴史フィクション短篇集です。

歴史上の人物を近い位置で見ていた人(あるいは動物)が回顧して語るという面白い設定で書かれています。

本書に収録されている短編の題名からその設定が分かります。
(カッコ)は補足のために付け足してあります。

  • (オデュッセウスの)貞女の言い分
  • (新約聖書に登場する)サロメの乳母の話
  • ダンテの妻の嘆き
  • 聖フランチェスコの母
  • ユダの母親
  • カリグラ帝の馬
  • (アレキサンダー)大王の奴隷の話
  • 師から見たブルータス
  • キリストの弟
  • ネロ皇帝の双子の兄

そして最後には「饗宴・地獄篇」という短編が収められており、歴史上"悪女"と評された女性たちが、地獄で開催される夜会で一堂に会するというユニークな設定で書かれています。

歴史上の人物を主体的に描くのではなく、別の視点から描くことでユーモラスを取り入れ、歴史を敬遠してしまう人でも読みやすい内容になっています。

もっとも著者自身にはそういった意図はなく、単に遊び心で試みただけかも知れません。

ローマ人の物語」に代表される壮大なスケールの歴史小説で有名な塩野氏ですが、案外こうした短編作品の中にこそ自身の人物評や歴史観を率直に表現しているのかも知れません。

歴史を楽しむ秘訣は想像力であることを再認識させてくれた1冊です。