レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

日本史の謎は「地形」で解ける

日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫)

著者の竹村公太郎氏は、国土交通省の官僚として全国各地のダム建設、河川整備事業に関わってきた経歴を持っています。

よって竹村氏は地理や気象に造詣が深く、それを自身が好きな歴史という分野に紐付けて執筆したのが本書です。

本書の概要は序文にある次の言葉に集約されています。

何しろ地形や気象から見る歴史は、今まで定説と言われてきた歴史とは異なる。
このような説を発表すれば、素人が何を言うか、と歴史の専門家たちからの叱責を覚悟しなければならない。
しかし、地形と気象は動かない事実である。そのぶれない地形と気象の事象をどう解釈して、どう表現するかは各自の自由である。その解釈の根拠としてぶれない地形と気象を共有していれば、議論は拡大せず、客観的にある方向に向かっていく。

なぜ信長は比叡山延暦寺を焼き討ちしたか」、「なぜ頼朝は鎌倉に幕府を開いたか」、「元寇が失敗した本当の理由とは何か」といった出来事にはどれも諸説ありますが、著者はこうした疑問に大胆にも地形を用いて迫ってゆきます。

著者は歴史好きですが、いわゆる歴史学者ではありません。
それゆえ先入観を持たず、自らが得意とするアプローチで大胆に歴史の謎に迫る姿勢は新鮮であると同時に、説得力を持って読者へ語りかけてきます。

そもそも"歴史学者"という存在が曖昧なのかも知れません。

彼らが専門的、かつ体系的な知識を持っていることは認めますが、彼らの間でも歴史上の出来事へ対する解釈が異なる事例は多々ありますし、根拠となる文献が存在しない場合などは、永遠に正しさが証明されないこともあるでしょう。

一方で国民的歴史小説家であった司馬遼太郎氏のように学者並みの知識量を持った人がいたり、郷土の歴史に精通した玄人顔負けのアマチュア研究家の人がいるのも事実です。

もちろん歴史の謎すべてが地形で解けることは思いませんが、本書を読み進めながら、歴史が持つ魅力である"ひとぞれぞれの解釈の自由"を改めて気付かせてくれる良書だと思います。