レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

史記の風景

史記の風景 (新潮文庫)

史記」は前漢の時代に司馬遷によって書かれた歴史書であり、ジャンルを超えて世界で最も著名な本の1冊です。

2000年にもわたる古代中国の歴史を52万以上の文字で綴り、単に歴史上の事件を記録するにとどまらず、その内容は文化や風習、人物伝にまで渡り、後世に多くの影響を与えました。

史記から生まれたことわざや故事には枚挙にいとまがなく、日本でも奈良時代から「史記」は読み続けられ、その影響力は計り知れないものがあります。

たとえば現在使われている"平成"の年号1つとってみても「史記」にその由来を求めることができます。

著者の宮城谷昌光氏は、「史記」に登場する周や春秋戦国時代の人物を題材に多くの歴史小説を発表しており、「史記」の魅力を誰よりも知っている作家といえます。

一方で専門家でない私たちが漢文で書かれている「史記」を原文で読むのはきわめて困難なのも事実です。

本書はそんな「史記」を専門的に解説するのではなく、小説家ならではの自由な発想と解釈でその魅力を分かり易く伝えてくれる1冊です。

元々は新聞や雑誌で企画ものの連載として掲載されたものであり、基本的に1話完結の100章からなるエッセー風の文章で書かれています。

そのため気軽に読みながら新しい発見に出会う頻度も多く、いつの間にか「史記」の魅力に引き込まれてしまいます。

まさに教養と娯楽の2つの要素を満たしてくれる良書ではないでしょうか。

本書の中には太公望晏子孫臏といった小説の題材となった人物も数多く登場するため、宮城谷氏の作品を幾つか読んいるとより一層楽しめるでしょう。