レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

臓器農場

臓器農場 (新潮文庫)

本ブログではすっかりお馴染みになるつつある帚木蓬生氏の作品です。

箒木氏の比較的初期の作品ということもあり、この頃多く執筆していた医療サスペンスです。

出だしのストーリーを簡単にまとめると次のような感じです。


作品の舞台は、九州のとある港町にある最先端医療を行う民間総合病院。

この聖礼病院に新人看護婦として赴任した天岸規子は、本人の希望通り小児科に配属されることになる。

規子は看護婦として現場の経験を積む毎日を送るが、ある日奇妙なウワサを耳にする。

それはごく限られた医師や看護婦のみが立ち入ることの出来る特別病棟に"裏の産婦人科"が存在し、聖礼病院が実績を上げている臓器移植手術に深く関わっているというものだった。。。


著者の箒木氏は現役の医師であり、そこへ優れた作家としての力量が加わることで、作品内で描写される医療現場の風景が臨場感と説得力を持って読者へ迫ってきます。

新人看護婦が正義感と責任感を背負い命をかけて巨大な病院の闇を暴くという設定には少し無理を感じますが、それでも圧倒的な迫力に押されて思わずストーリーに引きずり込まれてしまいます。

箒木氏は常に世界の最先端医療にアンテナを張り、そこへ自らの医学的知見を加えることによって他の作家にはなかなか真似の出来ない小説の分野を切り開いているのではないでしょうか。


また本作品では「臓器移植」、「奇形児」、そして何よりも「救われる命と犠牲になる命」といった重いテーマを真正面から取り扱っています。

これらは殆どの人にとって関係のない事柄であり、できれば真剣に考えたくないテーマかも知れません。

本書を通じて普段向き合うことのない重いテーマと読者が自然と向き合うことの出来るというのが、著者の本当の狙いなのかも知れません。