一外交官の見た明治維新〈下〉
前回に引き続きアーネスト・サトウの回想録である「一外交官の見た明治維新」の下巻レビューです。
本書は日本に通訳官として日本に赴任していた当時の日記を元に書き起こされているため、会合の内容や事件などが日付と共にかなり詳細に記録されています。
サトウはイギリス大使と行動を共にする機会が多いこともあり、幕府側や薩長をはじめとした各藩の要人たちと頻繁に会っており、明治維新のほとんどの主要人物たちと面識があったと言っても過言ではありません。
伊藤俊輔(のちの博文)や後藤象二郎のように陽気ですぐに友人になった人物もいれば、桂小五郎(木戸孝允)や西郷隆盛のように言葉少なく重々しい雰囲気を漂わせる人物、聡明な君主である徳川慶喜、伊達宗城など、会う人によってサトウの目から見る日本人の印象はさまざまであるところが興味深いところです。
さらにサトウは斬首や切腹といった場面にも何度か立ち会った経験を持っています。
"切腹"を残忍な自殺行為とは見なさず、名誉に基づいた意味のある儀式と評価するところは彼の日本への深い見識を伺わせます。
もちろん日本食や日本酒にもすっかり適用し、芸者遊びにさえ興じる余裕があります。
さらに面白いことに、サトウの回想録には上司への不満、そしてライベルとなるフランス大使たちへの敵対心さえもが素直に綴られています。
これは本書が明治維新から時間の経った1921年(大正10年)に出版されたこともあり、誰へ対しても遠慮なく当時の回想を書ける立場にあったからでしょう。
結果的にイギリスはフランスのように積極的な軍事介入を控え、幕府(将軍)の持つ権力の弱体化を見抜き、薩長の持つポテンシャルをいち早く評価して明治維新において中立を保ち続けました、そして結果的に日本へ対する彼らの外交戦略はフランスを出し抜き成功を収めることになります。
つまりアーネスト・サトウは敏腕の通訳官としてだけでなく、優秀な諜報員としても活躍したことが本書から伝わってくるのです。