レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

和解

和解 (新潮文庫)

明治後半から昭和にかけて活躍した文豪・志賀直哉の代表作です。

白樺派を代表する小説家として夏目漱石芥川龍之介からも評価され、"小説の神様"と呼ばれたこともあるようですが、(個人的に)文学的な評価が不得意なため、自我流のレビューで本作品を紹介してゆきます。

まず本作品は文庫本で100ページ程度の分量であるため、2~3時間もあれば読み終えてしまいます。

これでも志賀直哉氏の作品としては長い部類であり、生涯に渡って長編小説をほとんど書かなかったこと、そして主に短編小説で評価されたことを考えると納得できる分量です。

本作品は父親との不和と和解を描いた完全な私小説です。

物語は幼くして亡くなった主人公(志賀氏自身)の娘の一周忌で墓参りに出かけるところから始まります。

完全に父親と不和な状態からストーリーが始まりますが、新たに娘を授かり無事に出産する過程で父親との心境や関係に変化が生じてゆくといったあらすじです。

作品全体のストーリーにはそれほどダイナミックな変化はありませんが、作品中で描かれる場面描写と、それに伴う主人公の心境についてはかなり詳細に描かれており、自身を主人公とした私小説ならでは繊細さであるといえます。

また実際の出来事以上に主人公が父親へ抱いていた憎悪怒り悲しみといったマイナス感情が理解共感愛情といった心境へ変化してゆく過程は起伏に富んでおり、それを読者をまったく退屈させることなく伝えています。

作品の中で父親との確執が長年に渡るものであることはストーリーの合間から読み取ることが出来るのですが、実際この不仲の根本は少年時代にまで遡るようであり、この「和解」で描かれている内容は、志賀氏自身の人生にとって大きな転換となった出来事なのです。

ちなみに本書の他にも多くの作品で父親との関係を描いた作品を発表しています。

少なくとも父親と不仲な息子といった構図自体は現実世界でも決して珍しくありません。

ただしそれを"文学"の地位にまで高めたところに本作品の意義があるのかも知れません。