一外交官の見た明治維新〈上〉
本書は英文によって発表されたアーネスト・サトウ(1843年~1929年)の著書を日本語訳して岩波文庫から出版したものです。
幕末の歴史に興味のある人にとってはお馴染みのイギリスの外交官(通訳官)ではないでしょうか。
ちなみに"サトウ"という姓は本名(Satow)であり、"佐藤"ではありません。
生粋のイギリス人であり、日本語を理解するのみならず文化や歴史に渡るまで幅広い知識を持った人物として知られています
幕末の維新史については、倒幕派や佐幕派に関わらず当時に活躍した人々によって多くの記録が残っています。
一方で外国人の立場から記録された明治維新の通史の数はそれほど多くはなく、本書がその代表的な存在であるといえます。
その価値は何と言ってもイギリス人という特殊な立場で書かれた本ということです。
当時のイギリスは"太陽の沈まない国"と評されるほど世界中に植民地を有しており、異文化へ対する価値観の違いについて当時世界でもっとも客観的に判断できる能力を持っていました。
また徳川将軍や大名、天皇に至るまで当時の日本人にとって権威的な存在へ対して(少なくともイギリス人同士では)自由な立場で論じることが出来たという点です。
たとえば尊王派に属する旧体制に批判的な立場の人物であっても、藩主へ対して辛辣な批判を書き残すことは殆どなく、やはり自らの立場に縛られざるをえない部分がありました。
その点、本書のようにサトウが日記を元もに書き起こした回想録(本書)は自由な立場で忌憚なく書かれています。
そのせいもあって明治維新の回想録にも関わらず、約50年が経過した大正時代の終わりから終戦まで25年間に渡って本書は日本政府によって禁書として扱われてきたという経緯を持っています。
明治維新史の奥行きを深めてくれる歴史的に貴重な1冊です。