雪国
ノーベル文学賞を受賞した川端康成の代表作といえば「伊豆の踊り子」と本書「雪国」です。
随分以前に読んだ時には殆ど意識しませんでしたが、今回「雪国」を読んでまず思ったことは、この2つの作品が非常に対照的な要素が多いということです。
まず前者が南国を箱庭にしたような伊豆を舞台にしているのに対して、後者は寒さ厳しい雪国を舞台にしています。
前者は短編小説であるの対して、後者は長編小説です。
前者は学生の淡い恋を描いているのに対して、後者は男と女の駆け引きがある大人の恋が描かれています。
さらに前者は著者が20代の若い頃に書いたものがたまたま評価されたのに対し、後者は作家として一定の評価を得た川端が、万を期して発表した作品のように感じます。
一方で"温泉"が舞台になっていること、また"芸者"が女性主人公として登場する部分は驚くほど類似しており、まるで「伊豆の踊り子」の学生が十数年後に「雪国」の主人公として再び登場した続編のように感じるのです。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
これは本作品の有名な冒頭であり、川端康成の作品をもっとも美しい日本文(日本語)であるとして見習うべきという評論家がいますが、一般読者がそれを意識する必要はありません。
食い入るように一語一句を追うより、川端の簡素で的確な文章は、流れるようなリズムで情景を思い浮かべながら読むことをお薦めします。