勇気凛凛ルリの色
浅田次郎氏のエッセーです。
ちなみに題名は著者が子どもの頃に好きだった「少年探偵団」の歌詞からとったものです。
浅田氏は若い頃に自衛隊に入っていた経歴のある体育会系の作家です。
それでも昔とは違い、昨今は体育会系の作家も増えて珍しくありませんが、もう1つの特徴はアウトローであることです。
自衛隊を辞めてからはネズミ講の幹部、取り立て屋をはじめとした数々のいかがわし職業を経験しながら、作家を目指していたという異色の経歴を持っており、そんな経歴を持つ人の書いたエッセーが面白くない訳がありません。
それだけに筋肉質な思考を持った三島由紀夫を尊敬し、内向的な太宰治を大嫌いな作家として公言してはばかりません。
もちろん自らの過去を振り返って書かれたエッセーは抜群に面白いのですが、本書に収められているエッセーは1994年から1995年にかけて週刊現代で連載されたものです。
つまり世間では地下鉄サリン事件をはじめとしたオウム真理教に関する報道が連日繰り広げられていた時期であり、やはり浅田氏も大衆週刊誌に連載を持つ立場としてしばしば話題に挙げ、本エッセーが連載されていた時代を思い出します。
真面目にオウム真理教事件に言及することもあるのですが、突然、当時頻繁にテレビに登場していたジャーナリスト・江川紹子氏に恋をしてしまったと告白する部分に読者は呆気にとられるに違いありません。
化粧ッ気のない顔。素朴で一途な知性。市松人形のごときヘアスタイル。もしデートをしたならば酒よりもメシよりも、とりあえずデパートに連れていって頭のてっぺんから爪先まで買い揃えてやらねばならないとどうしようもない愛らしさ。早稲田大学政経学部経由神奈川新聞記者という、メジャーだかマイナーだかよくわからんが、ともかく徹底的な在野の言論人。そんな彼女は私にとって、どれほど装いをこらした美人キャスターよりも局アナよりも、はるかに魅力的なのである。
さすがアウトロー作家と思わせるようで、どこか違うような気もするのですが、「作家=知識人」という雰囲気を微塵も感じさせない、また人情小説を得意とする作家とは違った一面を知ることの出来る誰でも気軽に楽しめるエッセーです。