学問のすゝめ
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」で有名な福沢諭吉の"学問のすすめ"です。
日本近代史におけるはじめての啓発本(啓蒙書)であり、国民へ学問の重要性を説いた歴史的な著書です。
現代は多くの啓発本が氾濫していることもあり、本書の内容はそれほど斬新でないかも知れません。
しかし本書を理解する上で欠かせないのは、その初編が明治5年に発表されたという時代背景ではないでしょうか。
明治5年といえば江戸幕府が倒れ、戊辰戦争が終結して数年しか経過していません。
つまり日本国民が江戸時代の価値観の中で育ってきたにも関わらず、代国家を目指すためのスタート地点に立たなければならなくなった当時の状況を考える必要があります。
これからの時代は生まれながらの身分ではなく、学問により立身する時代が到来したこと、国家と国民の立場は対等であること、男女の平等、1人の人間として経済的にも精神的にも独立すべきことを主張したことは特筆すべき点です。
本書の中で赤穂浪士の討ち入りに代表される主君への忠誠、そして結果としての切腹を"意味のない死"として明確に否定したことは当時としてはセンセーショナルであり、そのために保守的な考えの人々から身の危険を感じるほどの批判を受けたと告白しています。
もちろん昔から続く価値観すべて否定している訳ではなく、主君や主人へ忠誠を誓う封建的な時代が過去のものになり、西洋列強国からの完全な独立を実現するために国民1人1人が知識や技術を高め、将来を担ってほしいという願望がそこには込められています。
彼は中国(清)やインドがヨーロッパ諸国の植民地となり、そこに元々住んでいた国民が奴隷のように使役されている風景にショックを受け、日本を同じ状況にしてはいけないという強い危機感が根本にあるように思えます。
本書は国民の10人に1人が読んだと言われるほどの大大ベストセラーとなり、後世に与えた影響は計り知れません。
そこには漢学からはじまりオランダ語や英語、そして西洋の経済学や医学に至るまで多くの分野に精通した学者としての姿はなく、天性の教育者、そしてジャーナリストとしての福沢諭吉が浮かび上がってきます。