レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

輪違屋糸里 上

輪違屋糸里 上 (文春文庫)

浅田次郎氏による壬生義士伝に続く新選組を題材にした歴史小説です。

壬生義士伝は吉村貫一郎を主人公としたストーリーでしたが、本作は島原の芸妓・糸里を主人公に設定した一風変わった設定です。

本作は新選組が結成され京都へ上がった間もない頃、つまり芹沢派(芹沢鴨を中心とした水戸藩系列の剣士たち)と近藤派(近藤勇を中心とした天然理心流の剣士たち)によって運営されていた時期にスポットを当てています。

やがて近藤派によって芹沢派が粛清されることはよく知られていますが、これら一連の成り行きを島原の芸妓たちの視点から描いたところに本作の面白さがあります。

新選組は池田屋事件をはじめとした対外的な活躍の他に、内部で繰り返される権力闘争といった特徴を持っています。

これは鳥羽・伏見の戦い以前の新選組では戦闘によって死亡した隊士よりも、内部粛清や厳しい隊規則によって命を落とした隊士の方が多いことからも明らかであり、同時期に同じような立場で京都で活躍した見廻組には見られない特徴です。

新選組のみならず多くの志士たちが出入りした"遊郭"は、幕末史において欠かせない"重要な場所"です。

日常を忘れて遊興にふけるため、時には恋仲となった芸妓と会うため、また時には内密に謀議を進めるために遊郭を利用するなど、さまざまな場面で使われてきました。

きっと芸妓たちは彼らの本音や重要な秘密を耳にしたに違いなく、歴史の影で彼女たちが何を感じ、またどのような役割を果たしたのかを浅田次郎氏が想像を膨らませることによって生まれた作品ではないでしょうか。