ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在
今から20年近く前にアメリカ先住民(以下、先住民)を題材とした本を何冊か手にとった記憶があります。
それは先住民たちの自然と共生する伝統や文化、そして白人たちを中心とした入植者によって迫害されてゆく歴史に興味があったからですが、本書では現在のアメリカで暮らす先住民たちの抱える問題にスポットを当てています。
ちなみに"インディアン"という表現はコロンブスがアメリカ大陸をインドと間違って発見した際に、そに住む人々を"インド人"と総称したことに由来し、侮蔑的な表現を含んでいることから、現在はタイトルにある通り"ネイティブ・アメリカン"、もしくは"アメリカ先住民"と呼ぶのが普通のようです。
よく考えてみれば、アメリカ先住民たちは太古の昔からそこに住み続けていた人々であり、"コロンブスによって発見された"と表現するのは西洋文明側の勝手な解釈になるのは当たり前です。
著者の鎌田遵氏はカリフォルニア大学ネイティブ・アメリカン学部を卒業し、インディアン居留地を巡ってのフィールド・ワークにも力を入れており、本書を執筆するのに相応しい経歴を持った人物です。
現在、アメリカ国内にはおよそ320の居留地が存在し、その半数以上は、アメリカ西部に位置している。連邦政府から正式に承認を受けている部族の数は562だから、そのすべてが居留地をもっているわけではない。
先住民たちが今も暮らしている土地を端的に説明した部分ですが、1881年に1億5560万エーカーの土地を所有していたにも関わらず、現在は3430万エーカーを保持するに過ぎません。
強制移住により無理やり故郷を追われ、経済的な困窮から土地を二束三文で白人に売り渡す先住民たちが続出したため、彼らの土地は四角にくりぬかれた穴だらけの土地となり、部族の絆や伝統までもが分断されてしまったのです。
その結果としての社会からの孤立そして閉塞感は、深刻な社会問題を引き起こしています。
具体的にはアルコールやドラッグへの依存症であり、また先住民の一部がギャング化することによる治安の悪化という危機的な状況です。
本書で示される指標はどれも私たちが抱くイメージからは程遠く、悲劇的とさえ言えるものです。
インディアン衛生局によると、アルコール依存症に苦しむ先住民の割合は、全米平均のおよそ5倍、依存症によって引き起こさる死亡率は7倍以上といわれている。
過去1年間にメス(日本ではヒロポンと呼ばれる覚せい剤の一種)を使用した人口の割合は、先住民1.7%、白人0.7%、ヒスパニック0.5%、アジア系0.2%、黒人0.1%であるが、居留地で生活する先住民のあいだの割合はさらに高い。アリゾナ州のホワイト・マウンテン・アパッチ部族居留地では、部族政府関連の施設に勤める従業員の30%がメスの検査で陽性反応を示した。
1992年から98年にかけて、殺人事件の数は、全米レベルでは37%減少した。それに反して、1992年から99年かけて、居留地での殺人事件は50%もふえた。モンタナ州にあるフォート・ペック居留地で起きる殺人事件の人口当たりの比率は、観光地ニューオーリンズの2倍にまでなったことがあるといわれている。
一方で本書では先住民たちが自治権を回復し、伝統を守り、経済的にも自立するための取り組みも紹介されています。
これから先も苦しい道のりが続くことが予想されますが、少しでも良い方向に進んでゆくことを願わずにはいられません。