「諜報的生活」の技術 野蛮人のテーブルマナー
男性向け月刊誌「KING」で佐藤優氏が連載していた記事を1冊の単行本にまとめたのが本書です。
連載内容は外交官として諜報(インテリジェンス)活動に従事してきた経験を分かり易く、そして日常生活に応用できるようなヒントと共に読者へ伝えるという趣旨で執筆された記事です。
そのため佐藤優氏の著書をこれから読んでみようという人にとっての入門書としても最適です。
連載記事だけでちょうど1冊の単行本にまとまれば理想だったのですが、残念ながら「KING」は2008年に廃刊となってしまい、本書の後半は雑誌で企画された(?)著者と著名人たちの特別対談が4本収録されています。
まずは連載された記事(全12回)のタイトルを紹介します。
- 第1回 佐藤優式インテリジェンス読書術
- 第2回 公開情報からですら、差はつけられる
- 第3回 信頼されるためのサード・パーティー・ルール
- 第4回 つなぎ役(リエゾン)の重要性
- 第5回 大物になると、常に生命は危険
- 第6回 交渉に役立つ人間行動学
- 第7回 余計な秘密は知らないほうがいい
- 第8回 安心できる裏取りの方法
- 第9回 憎まれることなく嫌われる技法
- 第10回 上手なカネの渡し方
- 第11回 逃げ出すタイミングの見つけ方
- 第12回 始めるときに、「終わり」について決めておく
はじめは読書術という無難なテーマから入っていますが、「第5回 大物になると、常に生命は危険」 になるとかなり物騒な話題になります。
"ロシアでは5億円くらいの利権抗争があれば、かならず人が死ぬ"という著者が間近で見てきた具体的な例を日本にそのまま当てはめることは出来ませんが、日本でも事件性の出来事が起こっても不思議ではありません。
「第7回 余計な秘密は知らないほうがいい」では、余計な秘密(=自分の任務に関係のない秘密)を知ると面倒に巻き込まれる可能性が高いと指摘しています。
諜報活動において情報は多ければ多いほどよいと考えがちですが、そこには万が一自分が尋問対象者になったときに知らない秘密情報を漏らすことはできないというインテリジェンスの知恵があり、これもビジネスマンの活動にも応用可能ではないでしょうか。
また「第10回 上手なカネの渡し方」もかなり際どいテーマですが、実際に書かれている内容にはかなり説得力があり、効果的なプレゼント(または報酬)の渡し方として応用できるのではないでしょうか。
後半の対談では鈴木宗男、筆坂秀夫、田中森一、アントニオ猪木などかなり個性的なメンバーが登場し、後半のスペースを埋めるためとはいえ読者を飽きさせません。
対談における佐藤優氏の魅力は、知的な話題から体育会系のかなりマッチョな話(時には猥談に至るまで)相手によって幅広く対応できる点です。
分析能力だけでなく、こうした柔軟に対応できる能力こそがインテリジェンスにとってもっとも必要なのかも知れません。