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楚漢名臣列伝


まず最初に、やはり宮城谷昌光氏が描く中国史は最高のエンターテイメントだということを再認識させてくれた1冊です。

タイトルから分かる通り、本書は"楚漢"、つまり項羽と劉邦の戦いが繰り広げられた秦王朝末期から前漢にかけて活躍した名臣たちへスポットを当てた1冊になっています。

本書に登場するのは次の10人です。

  • 張良
  • 范増
  • 陳余
  • 章邯
  • 蕭何
  • 田横
  • 夏侯嬰
  • 曹参
  • 陳平
  • 周勃


やはり楚漢戦争の勝者となった漢(劉邦)陣営で活躍した人物の占める割当がもっとも高いですが、范増、章邯に関しては楚(項羽)陣営で活躍した人物であり、陳余田横の2人はどちらの陣営にも組みせず活躍しました。
張良は劉邦の軍師として知られていますが、実際には韓王の臣下として劉邦へ助力していた期間が長い人物です。

当然のように歴史的に勝者となった人もいれば、敗者となった人もいます。
しかし登場する人物たちに共通するのは、その能力と個性を充分に発揮して歴史上に確かな足跡を残したという点はもちろん、生き方そのものが(著者の個人的観点から見て)爽やかであるという点も重要になっています。

たとえば陳平は貧しさの中で大志を抱き続け、はじめは項羽に仕えるものの、自分が重用も信用もされないことを知ると、劉邦のもとに走り彼が持つ能力を最大限に発揮する機会を得ます。

一方で秦の降将という立場から項羽の臣下となった章邯は、劉邦との戦いで孤立して不利な戦況に陥っても最後まで裏切ることなく、自害に追い込まれるまで戦い抜きます。

意外にも漢の上将軍として比類なき活躍をした韓信、元盗賊の頭領であり項羽をゲリラ戦で悩ませ続けた彭越、項羽麾下随一の猛将である黥布(英布)といった有名な武将が名臣リストは漏れています。

たしかにこの3人の能力や功績は、本書で紹介されている人物に勝るとも劣らないものです。
しかし彼らは才能を自らの栄達のみのために利用し、他人を助けるために用いなかったように思えます。

つまり著者にとって彼らは有能ではあっても名臣ではなかったということになります。
もっと分かりやすく言うと、彼らの生き方から感銘を受ける点がなかったということになるでしょう。