ナポレオンの生涯
著者のロジェ・デュフレスはフランス人であり、世界有数のナポレオン研究の識者のようです。
ただ私自身が本書を手にとった一番の理由は、訳者が安達正勝氏であるという点であり、本ブログでも紹介した安藤氏の「物語 フランス革命」や「死刑執行人サンソン」はフランス革命の魅力を分かりやすく読者へ伝えてくれる優れた本でした。
本書を紹介するために訳者まえがきを引用するのがもっとも分かりやすいと思います。
コンパクトながら、内容が非常に詳しい。単なる伝記ではなく、ナポレオンがフランスおよびヨーロッパにおいて実際どんな政策を繰り広げていたのかが詳しく述べられており、この点に関しては、ナポレオンの分厚い伝記にもまさっていると言って、過言ではない。
たしかに本書は一般的な新書の形式と分量です。
ナポレオンの業績以外の無駄な記述を一切省いたような筋肉質な文章構成で、当然の結果として1ページあたりの情報量が豊富です。
また年代順に整理して書かれているため、読み終えてからも該当箇所を探しやすいという点で優れています。
ナポレオン賛美に終わることなく、批判的観点もしっかりと保持されている。ナポレオンは超人的天才ではあったが、彼も人の子、弱点はあった。フランス人であるにも関わらず、著者が批判も怠らなかったのは、われわれ日本人にとって大変ありがたいことである。
これもまったくその通りで、上り調子にある時にナポレオンが推し進めた政治や戦争は殆どすべてがうまく行き、想像力が産み出すこの上もなく大胆な政策を、可能か不可能かという現実感覚に適応させる能力があったと称賛しています。
一方でナポレオン体制に陰りが見え始めたときは、自分の思い違いをこれまでにもまして認めなくなる。自分の過ちを状況ないしは他人のせいにして、自分の見込み違いであったとは考えない。こうした頑固さが、彼の命取りになったと辛辣な指摘をしています。
物語としてナポレオンを知りたい人には不向きかもしれませんが、本書はナポレオンの業績のみならず、彼が19世紀はじめ、または後世に残した世界への影響についても触れられており、歴史的評価の中でナポレオンをどのように捉えるべきかのヒントを読者に与えてくれる1冊になっています。