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フランス反骨変人列伝


フランスの文学、歴史に造詣の深い安達正勝氏が、世界史の教科書に登場しない人物にスポットを当てています。

しかも時代の流れに逆らった反骨精神旺盛な人、理解に苦しむ変人という実に魅力的(?)な人選をしています。

本書に登場人物は4人ですが、ネタばれしない程度に紹介してみようと思います。



  • モンテスパン侯爵


  • モンテスパン侯爵は、フランスの最盛期に君臨していた太陽王ルイ14世に逆らった地方貴族です。

    ルイ14世は教科書にも必ず登場する有名人であり、絶対王政を象徴する言葉として「朕は国家なり」という言葉が知られています。

    ともかく当時のフランスで王に逆らうなど考えられないことであり、立場も実力も歴然とした差がある中で1人王に逆らい続けたのです。

    その理由は本書を読んでのお楽しみですが、ともかくモンテスパン侯爵は牢獄に入れられようとも、大金を失おうとも自らの信念を曲げませんでした。

    今でいえば大企業の新卒社会人が、1人で社長に歯向かうほど無謀な行動でしたが、なぜか彼の反骨精神にある種の感動を覚えてしまいます。


  • ネー元帥


  • ネーは樽職人の息子として生まれながら、ナポレオンの部下として叩き上げで元帥にまで昇りつめた軍人です。

    勇者の中の勇者」とあだ名れるほど勇敢で優秀な軍人であり、今回登場する4人の中ではもっとも知名度が高いはずです。

    なぜ優秀な軍人であるネーが本書に登場するかといえば、ともかく不器用で世渡りが下手だったからです。

    体育会系の人間を「脳みそまで筋肉でできている」と揶揄することがありますが、まさしくその典型的な人物なのです。

    ネーが生きた時代は、王政→革命→ナポレオン帝政→復古王政 と目まぐるしい動きがありました。

    こうした激動の時代を生き抜くのは、よほどの知力と運が必要ですが、戦場では無類の強さを発揮できても、その他はからっきしだったネー元帥がどのような顛末を辿るかは本書を読んでのお楽しみです。


  • ラスネール


  • 本書では"犯罪者詩人"として紹介されているラスネールですが、4人の中ではもっとも変人といっていいでしょう。

    ラスネールは文学や詩の才能がありつつも社会に認められず鬱屈してゆき、やがて犯罪に手を染めてゆきますが、皮肉にも彼が国中から注目を浴びるのは、殺人を犯し逮捕されたあとの裁判所における振る舞いや雄弁さによってです。

    本書で彼の生涯が語られますが、彼自身が獄中で残した「回想録」も有名であり、日本語訳でも出版されています。



  • 六代目サンソン


  • 以前、同じ著者による「死刑執行人サンソン」を本ブログで紹介していますが、そこに登場するのは主にフランス革命期に死刑執行人だった"四代目サンソン"であり、本書で登場するのは六代目です。

    ムッシュ・ド・パリ」という称号で代々パリで死刑執行人を担ってきたサンソン家ですが、彼らはその役割から市民たちに恐れられ、また軽蔑されてきました。

    それでも彼らは職務を忠実に執行し続け、表に感情を出すことはありませんでしたが、この六代目は死刑制度に疑問を懐き続け、自分の仕事に嫌悪を懐き続けました。

    本章を読みすすめると、変人列伝というより現代社会でも充分に通用する死刑制度の是非を問う真面目なドキュメンタリーという印象を受けます。

    「人に人の命を奪う権利」があるのかという根本的な問いが本章には込められています。



    本書に登場する4人を簡単に紹介してみましたが、歴史教養、娯楽という両面でおすすめできる1冊です。

    学術書のような堅苦しさは微塵もなく、読者が楽しみながら歴史を学べるという著者の意図は見事に成功している1冊といえます。