レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

峠うどん物語 下



国道の走る峠に市営斎場と向かい合って営業している「峠うどん」を舞台にして繰り広げられる物語の下巻です。

作品自体は上下巻を通じて10編の短編で構成されています。

基本的にそれぞれの短編は独立した形で完結していますが、全編をつなぐストーリーも存在しています。

その1つが「峠うどん」の商売についてです。

中学に通う主人公・淑子(よしこ)の祖父母がうどん屋を経営していますが、職人気質の祖父は客席を増やして葬儀帰りの団体客を受け入れるような提案にまったく耳を貸しません。
つまり商売っ気が無いのです。

葬儀帰りの悲しみに沈んだ人を慰めるような味にこだわったうどんが売りであり、そんなお店だけに人生の終焉つまり""を扱った作品でありながら、人情味溢れるストーリーが繰り広げられます。

そこへ頑固な祖父とおせっかいな祖母、そして何にでも興味津々な孫の淑子、時には教師である淑子の両親が加わりストーリーが多彩に広がってゆきます。

下巻の終わりへ近づくにつれ毎週楽しみにしていた連続ドラマが最終回を迎えつつあるような寂しさを覚えますが、それも読者としていつの間にか「峠うどん」へ愛着を抱き始めているからです。

著者の重松清氏はあとがきで次のように書いています。
舞台は、斎場のすぐ近くにあるうどん屋 - 書き出す前に決めていたのは、それだけだった。

作者自身が、好奇心と期待を胸にどんなお客が入ってくるかを待っていたに違いありません。