近畿地方のある場所について
本ブログではジャンルを問わず色々な本を紹介しようと思いつつも、ホラー小説の分野はラヴクラフト全集を紹介した程度だったこともあり、2年近く前に購入したまま積ん読状態になっていましたが、"今どきのホラー小説"を読んでみようと引っ張り出してみました。
著者は「背筋」というペンネームであること、はじめに本作品が話題になったのは小説投稿サイトであるという点も"今どきのホラー小説"を感じさせてくれます。
ホラー小説はミステリー小説と似ている部分があり、ストーリーそのものを紹介してしまうとネタバレになってしまい、これから読む人の意欲を半減させてしまうため極力避けたいと思います。
まず面白いと思ったのは、本作品のストーリーそのものは極めてシンプルですが、多くのショートストーリーによって構成されているという点です。
正確にはショートストーリ-ですらなく、中には掲示板(BBS)の書き込みだけ、独り言のような記述だけで終わる場合もあります。
また作品中ではタイトルにある"近畿地方のある場所"は"●●●●●"という伏せ字で記載されていますが、ショートストーリーのいずれもが直接的、間接的に関わらずその場所へ関係のあるものになっています。
このショートストーリーを読者の頭の中で組み合わせてゆくこで、"●●●●●"にある怪奇の正体を推測できるという構成になっています。
私自身は読み進めてゆくと、令和版のクトゥルフ神話のような印象を受けました。
理由として主人公たちの脅威となる怪異は人間の力をはるかに凌駕した一種の"邪神"のような圧倒的な力を持っているという点です。
クトゥルフ神話であれば"異形の神々"と呼ばれるような存在であり、その正体を探ろうとした人間は命を失うか、運が良くても正気を失うという末路を辿ることになります。
また本作品がミステリー作品と違うのは、怪異の正体が明確に解説されていないという点です。
こうした手法はホラー小説では常套手段でもあり、読者それぞれの判断に委ねる余地を残しておいた方がより印象に残るものです。
私自身は自分なりの答えを得ることが出来て納得することができましたが、読む人によってはこの部分にストレスを感じてしまうかもしれません。
この物語では"山"が重要なキーワードになっていることから本ブログで過去に紹介した「山怪」シリーズを、また民俗学な雰囲気は柳田国男の「遠野物語」を連想してしまう要素もあり、個人的には楽しく読むことができました。
やはり日本の夏は怪談やホラーが風物詩であり、冷たいビールを片手に本書を読みながら夏の夜を過ごすのも悪くないと思います。
