カムチャッカ物語―第二龍宝丸虜囚之顛末
戦時から戦後にかけてカムチャッカ半島へ鮭漁へ出かけた漁船「第二龍宝丸」が、ソ連に拘束され、そのままカムチャッカで強制労働に従事した人たちを題材として描かれた1冊です。
まず圧巻なのが、当時のカムチャッカ半島における船員や漁師たちの生き生きとした描写です。
船内での生活風景、人間関係をはじめとして、そこで働く人たちの心理描写は目を見張るものがあります。
しかしそれもそのはず、著者は捕虜となった当時の数少ない「第二龍宝丸」の一員であり、本書は自らの体験を元に再現した回想録でもあるからです。
カムチャッカ半島は日本の中で最も近い北海道からでさえ1000キロ離れた距離にあり、その面積は日本に匹敵するほど巨大なものです。
そこでの過酷な強制労働や食糧事情による苦しさもさることながら、祖国や家族と引き離されて期限の見えない日々を過ごす状況は、絶望との闘いの日々でもあったと思います。
戦争は当事者だけでなく、様々な人たち(本書では漁業従事者)を不幸に巻き込んでしまう恐ろしいものであることを再認識させられます。
少し残念なのは、著者の都合か紙面の都合かは分かりませんが、抑留生活の半ばにして本書が突然終了してしまっていることです。
それでも規模の大きなシベリア抑留に比べて知名度の低いカムチャッカ半島の抑留経験者によって書かれた本書の存在は、大変貴重なものです。