レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男

ゲームの父・横井軍平伝  任天堂のDNAを創造した男


花札・トランプのメーカだった任天堂を世界的な企業へと躍進させた最大の功労者”横井軍平”の伝記です。

横井氏といえば名言「枯れた技術の水平思考」で有名であり、最先端技術を追いかけるのではなく、安価で普及した技術を利用して世界で初めてのものを作る哲学を貫き通した開発者として有名です。

この遺伝子は、1997年の彼の死後においても「Wii」や「ニンテンドー3DS」に受け継がれ今でも任天堂の中に生きています。

残念ながら横井氏は1997年に事故により急逝してしまいますが、アップル社の「iPod」、「iPhone」もこの考えを継承した例として挙げられることが多く、"横井軍平"の名は海外でも高い評価を得ています。

簡単に実績だけを挙げても、ウルトラハンド(伸縮して遠くのものを掴む玩具)にはじまり、ウルトラマシン(部屋でできるピチングマシン)、光線銃、そしてゲームウォッチからゲームボーイという数々の大ヒット商品を生み出しています。

そしてファミコン生みの親である宮本茂が、"師匠"と仰ぐ人物としても知られています。

本書を読んで驚いたのは、横井氏がインターネットが普及しはじめた初期の頃に、既にゲーム機の将来を的確に予測していたことです。

それはゲーム機の進化はCPUなどの「性能の進化」に過ぎず、その本質は画面上の演出の向上であると予測し、膨らむメーカの開発費用とユーザのマニア化(=ゲーム人口の減少)によって限界(衰退)を迎えるといったもので、今の家庭用ゲーム機の現状そのものです。

私自身含めて、初期のドラゴンクエストやFFシリーズをプレイしていた同世代は多いですが、今でも最新作をプレイし続けている人は随分減ってしまった(=殆どいない)というのが実感です。

横井氏の出発点は、本人が「落ちこぼれ」と自称するように、入社当時は花札の製造に使う糊の攪拌機の改良を行っている程度のエンジニアであり、後に"天才"と評される人物の片鱗をどこにも感じさせない人物でした。

しかし当時の任天堂の山内社長の大抜擢に伴い、頭角を現してゆきます。

横井氏は、ゲーム機やデジタル技術でさえも遊びの1つの手段に過ぎないと割り切っており、本質的な遊びの”楽しさ"を追求し続けます。

そう考えると事業的な責任とマネジメント業務に嫌気が差して、後に任天堂を退社した彼の心境は良く分かる気がしますし、子供の頃に体験した"楽しさ"を大人になっても忘れられず、生涯"遊び"を求道し続けるための出家であった感さえあります。

「枯れた技術の水平思考」を通じてのイノベーション部分を大きくクローズアップして評価する機会が多い気がしますが、真に評価すべき点は、"遊び"の本質を追及し続けてた信念であり、そこから生まれた着眼点だと思います。

特に今のゲーム業界は成熟を通り越し、行き詰まった感さえあります。

この本には、もう1度ゲームの本質を見つめ直すべきだと示唆しているように思えます。