レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

日本人へ 国家と歴史篇

日本人へ 国家と歴史篇 (文春新書)

「リーダー篇」の続編として出版された塩野七生氏のエッセイ集です。

前巻と比べると、話題がファッションからワインや日本酒、映画、そして執筆活動にまでに及び、よりエッセイ色の強いものになっているようです。

エッセイならではの気楽な雰囲気の中にも塩野氏の明快な文章は健在であり、むしろ話題が自らの趣味に及ぶだけにその切れ味は一層増しています。

今回注目したのは、著者が身を置く出版業界に言及している部分です。

1996年をピークに出版業界の売り上げは2割近くも落ち込み、著者自身も初版部数の削減などの影響を受けていることを告白しています。

読書離れやインターネットにより、今後も出版各社がリスク回避のために短期的に利益を回収できるタイトルに重点を置くだろうとも予測しています。

確かに有名芸能人や売れっ子評論家が短期間に執筆するタイトルが話題に上ることが多い中で、15年間に渡る綿密な取材と調査を元に書き上げた「ローマ人の物語」は対極のスタイルであるといえます。

著者の作品に関していえば読者の知的好奇心を満たすに留まらず、古代~中世イタリア時代を臨場感を持って体験させてくれる楽しさがあります。
それらが著者の地道な活動の積み重ねと情熱による賜物であることは疑いなく、読書好きの人間としても今後こういった種類の本が少なくなってくことに危惧を抱いてしまいます。

また出版の問題も本書で触れられている政治不信や経済停滞、そして安価なブランドの氾濫といた話題もどことなく1本の線として繋がっているような気がしてくるので不思議です。

私自身も「良い本」と感じるものが、必ずしもベストセーと一致することは少なく、読書を有意義なものにするためにも著者の発言は示唆に富んだものとして響きます。