忍びの国
「のぼうの城」に続いて発表された和田竜氏の作品です。
前作の主人公は戦国武将でしたが、今回は少し雰囲気が変わって忍者が主人公です。
物語の舞台は忍者で有名な"伊賀の国"。
織田信長の次男"信雄"は伊勢の有力大名"北畠具教"を滅ぼし、隣接する伊賀への侵攻を企てはじめる時期から物語がはじまります。
伊賀は戦国期においても強力な支配者(大名)が生まれず、一種の自治共和制のような独自性を維持しています。
国土の大部分が山林という地形も影響し、有能な伊賀忍者を生み出す土壌となりました。
そんな中央権力が行き届かない混沌とした地域であるがゆえに小説の舞台としてはうってつけであり、伊賀の有力豪族"百地三太夫"配下の凄腕忍者"無門"が縦横無尽に活躍する小説です。
戦国武将が主(あるじ)を持ち、正面から敵と渡り合う武芸や名誉を重んじたのに対し、忍者は奇襲やゲリラ戦法に特化し、名誉に関係なく報酬に応じて働くといった対極に位置します。
見方を変えれば両者が軍人であることは共通していますが、武将が正規軍であるのに対し、忍者は傭兵部隊であるといえます。
小説に登場する無門は、典型的な忍者として主従関係や名声に無縁であり、報酬に応じて自分の好きな仕事をこなすといった自由人として暮らしています。
信長や主の三太夫でさえ無門を従わせることは出来ない中で、唯一他国からさらってきた内縁の妻には頭が上がらないという設定が面白いところです。
義理に縛られた武将たちを小馬鹿にして自由奔放に生きてきた無門ですが、信長という強大な勢力が生まれ伊賀への侵攻が行われる中で、時代の流れに巻き込まれずにはいられなくなります。
様々な忍術を駆使してのアクション、目まぐるしい攻防は充分に満足できる内容です。
賛否が分かれるところですが、和田氏の小説は戦国時代を舞台にしたものであっても分かり易い現代語で書かれているため、歴史小説を敬遠していた人でも抵抗なく受け入れられるのではないでしょうか。