濁流〈下〉―企業社会・悪の連鎖
上巻に引き続き読者の期待を裏切り続ける主人公の田宮は、絶対的な独裁者である杉野の思惑通り、長女の"杉野治子"と交際を行うハメになります。
しかし実際に交際を続けてゆく中で、治子自身や母(=杉野の妻)や兄も家庭を顧みない父親のやり方には反発を抱いていることが判明し、吉田を中心とした若手社員の後押しもあり、少しずつ田宮は社長のやり方に反対する言動を見せ始めます。
これには、治子との間に心を通じ合わせ、愛し合う関係になってゆく田宮自身の心境の変化も関係しています。
ただし結果として、田宮は役員に昇格したにも関わらず1週間で2度も降格させられるなど、独裁者へ挑戦したツケを支払わされることになってしまいます。。。
そこへ社内No2の実力を持つ謎の美人秘書である古村が、田宮に近づき驚愕の取引を持ちかけるなど、とにかく怒涛の結末に向かって物語は一気に動き出します。。。
確かに会社を興し、独裁者(オーナー)として君臨する杉野は、運だけではなく当然実力もあります。一方で、その体制が長年に渡って続くことで、地位や欲望に囚われるようになるのが、人間の悲しい性です。
それゆえ当たり前の倫理観を失ってしまうという典型的な人物として描かれています。
そこには企業を私物化する行為への作者の痛烈な批判が込められていますが、"裸の王様"のように側近からさえも心から忠誠心を抱く人間を失ってしまった悲しい孤独な人間の姿が垣間見れる気がします。