山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か
登山ブームと言われて久しいですが、車の運転と交通事故のように、登山といえば遭難事故の可能性が常に付きまといます。
長年に渡り著者は山の遭難事故をテーマに執筆しており、日本登山の歴史、そしてブームの移り変わりと共に遭難事故と原因がどのように変化していったかを解説した1冊です。
明治期から1960年台までは、未踏のルートを開拓する体育会系登山が多く、絶壁からの転落やより困難なルート(バリエーションルート)に挑戦する過程での事故が多くを占めていました。
しかし登山人口に占める中高年者の割合が高くなるにつれ、自分の体力を見誤ってしまった結果の転倒などの事故、そして初歩的な知識や技量の不足による道迷いや装備不足による遭難の割合が増えてきている傾向があります。
登山ブームと共に登山道が整備され、装備品質の向上などが図られ、確かに昔より登山は気軽に挑戦できる趣味になったことは確かですが、対象が人間のコントロールできない自然であり、しかも人が住んでいない高山である以上、不測の事態が発生するリスクは決して0には出来ません。
それにも関わらず登山ブームの商業的なメリットを優先するがあまり、安易な装備・計画でのツアー登山やガイド登山が氾濫し、登山者たちの安全が疎かになっているのが現状です。
昔は山岳会に入会するのが登山家たちの常識であり、厳しい上下関係があるものの、若い登山家たちが経験とスキルを積むことのできる土壌がありました。
確かに会社の上下関係だけでも辟易しているのに、趣味の集まりでも上下関係に従わなければいけない窮屈さを敬遠する気持ちは分かりますが、それ以上に登山の基本は"自己責任"であり、その責任を果たすためには一定の技量が必要になるのは仕方がない事であり、つまり本来はそれだけの危険性を伴うスポーツだったわけです。
本書は主だった遭難事故の事例から、統計データを用いての傾向まで登山未経験者にとっても分かり易く書かれているのは好感が持てます。
また後半になるにつれて山岳地帯での救助活動にも紙面を割いており、安易な救助要請が目立つ現状に危機感を持っています。
その1つに自治体(警察・消防)による救助活動は無料であるというものです。
もちろん本質的に救助活動が無料であるハズもなく、安易な気持ちで登山をはじめた遭難志願者ともいえる人たちへ(大部分が登山とは無関係の人々の)多額の税金が費やされてる現状に対して、著者は遭難者へ対する"有料化"を提案しています。
本書に書かれているような救助の実態、そして財政難と言われる現状を考えれば、全くもって著者の提案へ賛成せざるを得ません。
そもそもヘリコプター等による救出にはレスキュー隊側にも命の危険性が伴い、本来であれば無料、有料に関わらず安易な救護要請は慎むべきです。
著者は登山愛好家の1人であることは間違いないと思いますが、本書ではあえて登山の魅力には触れず、淡々と遭難の実態、悲惨さと、そこに潜む問題点を指摘するスタイルを貫いています。
たまに山歩きをする程度の私にとっても、気の引き締まる思いで読んだ1冊です。