青雲はるかに〈下〉
前巻で、魏の宰相である魏斉の一方的な仕打ちから奇跡的な生還を遂げた范雎ですが、復讐を誓いつつも表面上は穏やかに日々が過ぎ去ってゆきます。
友人の"鄭安平(ていあんぺい)"が范雎へ対し、
「大きな成功を得るには長い年月がいる。早い成功は限界をつくる」
と言ったように、いつしか四十代に達した范雎が悠然として過ごす姿は、完全に自らの運命を天に委ねてしまっているかのようです。
しかし天は范雎を見放すことはありませんでした。
長い月日が流れ、秦から魏への使者として訪れていた"王稽(おうけい)"によって、ついに見出される日が来ることになります。
秦へ入国してから"昭襄王(しょうじょうおう)"に仕えることになりますが、魏侯という重臣と昭襄王の母の宣太后によって、実質的に秦が支配されている状態であり、なかなか重用される日が来ることはありません。
范雎はこの状態を昭襄王へ直言し、あるべき秦の方向性を示すことで目を覚まさせることに成功します。
やがて魏侯と宣太后は失脚し、范雎は秦の宰相に就任することになります。
当時の秦は戦国時代において最も勢力を持った国であり、すなわち秦の宰相は人臣の頂点を極めたということになります。
これは同時に魏の宰相である魏斉との力関係が逆転し、ついに復讐の機会が到来したことを意味します。
羽陽曲折がありながらも魏斉へ念願の復讐を果たし、魏斉の妾となっていた原声を取り戻すことに成功し、更には鄭安平はじめ恩を受けた人々へ対して地位や金品によって報いる場面はこの作品のもっとも華やかな場面となります。
もちろん秦の名宰相といわれた范雎は魏への復讐だけでなく、大きな視点に立てば、彼の立案した戦略により秦の中国統一が百年は早まった言っても過言ではありません。
今から2200年以上の前の出来事を舞台にした作品であるにも関わらず、人間の普遍的な輝きと感動を読者に与えてくれる大作です。