晩年
「津軽」に続いて太宰治の作品です。
本書は短編集の形で作品ごとの執筆手法も異なるため、全体的なイメージが掴み辛いかも知れません。
太宰ほど自分自身の心境を吐露しつつ小説を書いた作家も珍しいと思いますが、その思考の経緯さえも長々と作品の中に挿入してしまう"ふてぶてしさ"があります。
小説家という自身の職業に軽蔑を抱きながらも、ライバル作家や後世の評価をまったく無視する境地にまで至ることのできない、人間らしさが漂っている作品が個人的には好きです。
本書は15編の作品が納められていますが、お気に入りは「思い出」、「道化の華」、「彼は昔の彼ならず」あたりでしょうか。
文学というと美辞麗句が並ぶ文章と敬遠しがちな人も、太宰治の作品がそうした表現から縁遠い庶民のための小説であると実感できる代表的な短編集です。