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奥州藤原三代の栄華と没落

奥州藤原三代の栄華と没落---黄金の都・平泉の歴史を巡る旅 (KAWADE夢新書)


高橋克彦氏の「火怨」「炎立つ」を読み、東北の歴史を整理したくて手にとった1冊です。


タイトルに"奥州藤原三代"とありますが、実際には縄文時代(石器時代)の考察から始まり、陸奥の平安時代~鎌倉時代までを網羅して執筆しています。

明治学院大学の教授が執筆した専門書に近い本ですが、内容は難解ではなく、先ほどの陸奥三部作を読了したレベルであれば充分に理解できる内容です。


歴史小説の場合にはストーリー組み立ての都合から描写の視点や場面が偏ってしましますが、そこが小説の魅力でもあるが故に避けることはできません。


一方で歴史を俯瞰して見るために、本書のように学者からの視点を取り入れるのも有意義です。
小説の世界観に奥行きを持たせることもできるため、歴史小説好きには是非お勧めしたい方法です。

奥州藤原氏のように歴史的な権力争いに敗れた側の資料は乏しいのが常であり、本書は残された断片的な原資料へ理論的に推測を加え、なるべく藤原氏が支配していた当時の陸奥の姿に迫ろうとしています。


奥州藤原氏の外交感覚は優れており、朝廷に対しても天皇や上皇といった最上位の権力者の実態を見抜き、摂関家といった実際の政治を取り仕切る公家を通して接近を行い、陸奥の支配を確固たるものにしていたという学説は一致しているようです。

続いて登場する平清盛に代表される武家へ対しても同様の政策による陸奥の完全な自治の掌握を続けてゆくことになります。

しかし源頼朝の台頭により世の中の勢力図が激変し、ひたすら静観を続けた藤原氏はやがて滅亡の道を辿ることになります。

藤原氏がかくまった源義経の伝説についても諸説触れられており、新書という条件の中で一通りの要所が抑えられていて、(専門家ではなく)歴史好きというレベルであれば充分満足できる内容でした。


今後は東北地方に広がっていたアラハバキ信仰について書かれている本があれば、いつか探して読んでみたいですね。