ヤクザと原発 福島第一潜入記
著者の鈴木智彦氏は長年にわたりヤクザをテーマとした執筆活動を続けている作家です。
当ブログでも過去に「潜入ルポ ヤクザの修羅場 」で鈴木氏の著書を紹介しています。
鈴木氏の特徴は、何といっても徹底した突撃取材であり、彼の行動力は本書でも遺憾なく発揮され、ジャーナリストしてはじめて福島第一原発に作業員として潜入取材を実行します。
周知のとおり東日本大震災の地震や津波は、多くの犠牲者を生み出しました。
しかし人類が何度も経験してきたように、自然災害の傷跡は時間の経過ともに復興してゆくことが可能です。
一方で原発事故は時間の経過と共にむしろ被害が拡大してゆく危険性があり、その影響は震災から2年が経過しても収束する気配を見せません。
原発は未だに制御不能な側面をもったテクノロジーであるにも関わらず、かといって放置できる性質のものではなく、その復旧のためには多くの人手が必要となります。
そして多くの人夫が必要となる作業にヤクザが介入しているとの情報を得て、著者はライターという本来の身分を隠して一作業員として原発に潜入することになるのです。
原発反対派か賛成派か、その結論について著者は触れていません。
ひたすら現場で働く作業員たち、その裏で暗躍するヤクザたちの姿を追っているルポルタージュです。
著書を見る限り、原発復旧作業に間接的にしろヤクザが介入しているのは事実です。
ただし原発復旧作業の取材を読み進めてゆくうちに、「それがどれだけ大きな問題なのか?」という疑問が浮かび上がります。
原発の事故は多くの住民たちの故郷を失わせ、全国各地から集まってきた作業員は、充分な放射能の知識を持ちあわせていないまま危険な作業を続けています。
どう考えてもヤクザにそれだけの力はなく、原発の問題があまりも大き過ぎるのです。
タイトルの通り、はじめは原発とヤクザを結びつけた内容になっていますが、話が進むにつれ、その比重がどんどん原発へと大きくなってゆきます。
多くのメディアが報道できなかった事実を鈴木氏が身をもって潜入取材したことが本書の価値の大きくしています。