レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

おバカさん

おバカさん (ぶんか社文庫)

昭和34年から連載が開始された遠藤周作氏にとってはじめての新聞掲載小説(朝日新聞)。

都内の銀行に勤める"隆盛"の元に、かつて文通相手であったフランス人"ガストン・ボナパルト"がはるばる遊びに来るという知らせが届く。

名前からも推測できる通り、ガストンはかのナポレオンの子孫(自称)であり、隆盛は妹の巴絵と共に不安と期待に胸を膨らませて待つことになるが。。。

実際に対面したガストンは、長身ながらも馬ヅラのみすぼらしい、およそ想像とは似ても似つかぬ愚鈍な青年だったのです。

それに加えて彼の何よりの特徴は、人のいうことを疑わない純真無垢な性格であり、そのため様々な事件に巻き込まれてゆく笑いあり涙ありのコメディ色のある長編小説です。

現在に限らず、いつの時代でも人間は欲望や憎しみといった感情から無縁であることが難しく、そうした感情を置き去って生まれたかのようなガストンは、最初は滑稽な存在であり周りからバカにされますが、少しずつ登場人物たちに影響を与えてゆきます。

キリスト教の影響を受けている遠藤氏流の演出でいえば、神が人間を哀れんで地上に遣わした"天使"と表現することもできます。

初期の作品であるにも関わらず、遠藤氏の長い作家活動を通じて扱うテーマが一貫していることを感じさせます。

ただし後年の遠藤氏の作品のように、重々しい雰囲気は少なく、新聞連載を意識した大衆受けする軽い語り口で書かれているため気軽に読み進められます。

これから遠藤周作の作品を読んでみようと考えている人に、はじめにお薦めしたい作品です。