レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

アンフィニッシュト

アンフィニッシュト (文春文庫)

古処誠二氏の作品です。

以前ブログで紹介した「ルール」が良かったため、今回も期待して手にとってみました。


本書「アンフィニッシュド」は自衛隊を舞台とした小説です。

東シナ海に浮かぶ伊栗島に駐屯する海上自衛隊の基地で、1丁の小銃が紛失する事件が起こるところから物語がはじまります。

そこで防衛部調査班の2名(朝香二尉、野上三曹)が調査のために伊栗島に派遣され、事件の解明を試みることになります。。

自衛隊ではあらゆる備品が税金により賄われているという意識が徹底しています。

そのため物品は厳格な管理がされており、それが火器ともなればなおさらです。
ゆえに1丁の小銃ともいえども、それが紛失となれば自衛隊にとって大事件になります。

本書に登場する伊栗島は架空の島ですが、作品で描かれる自衛隊の姿は、装備や施設、そして独特の文化に至るまでリアルに描かれています。

武器を持ちながらも軍隊として認められていない自衛隊。
いびつな組織の中で隊員たちが抱える矛盾を、こうした事件を鍵として深く浮き彫りにしている手法は斬新です。

事件解明に至るまでの段取りも推理小説仕立てで書かれており、朝香二尉が探偵だとすれば、野上三曹はその助手という役割で読者をまったく飽きさせません。

自衛隊を軍隊として認める・認めないとう考えは人によって違いますが、少なくとも自衛隊という存在をもう1度見つめなおす機会を与えてくれる作品であり、著者の意図もそこにあります。

北朝鮮や中国といった隣国と緊張関係が高まりつつある中で、武力の面で渡り合える日本の組織は自衛隊しかいません。

さらに万が一の際には、彼らがその実力を充分に発揮できるかに国防のすべてが委ねられています。

もちろんアメリカが同盟軍として参戦することは予想できますが、歴史を紐解いても他国の軍隊に自国の防衛を委ねて繁栄できた国家は存在しません。

自衛隊が実力を発揮しなければならない機会など永遠に訪れない方がよいのですが、それを結論としてしまった時に日本は再び亡国への道を歩んでしまうことを、本書は示唆しているようにも思えます。