レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

舞姫通信

舞姫通信 (新潮文庫)

5年前に一卵性双生児の兄を自殺で失った新任教師の岸田は、都内にある女子高校に赴任することになります。

そこでは何者かの手によって「舞姫通信」なるものが、定期的に生徒たちに向けて配布されていました。

"舞姫"とは、校舎内で10年前に飛び降り自殺をした1人の女子生徒であり、彼女は密かに生徒たちの憧れの対象でもありました。。

作品の導入部を軽く説明しましたが、本作品は重松清氏が"若者の自殺"をテーマに執筆した小説です。

つまり人生のどん底や生き地獄を経験した人が最後に選ぶ"自殺"ではなく、大きな挫折を経験していない"生"への執着が薄い若者が手段として選ぶ"自殺"がテーマになっています。

昔から若くして自らの命を断たった俳優、ミュージシャン、小説家は存在しました。

そして彼らに共通すのは若者たちにカリスマ性を帯びた人気を得ているという点であり、生き残った人びとへ永遠の存在として老いることなく記憶へ残り続けることを美学とする感覚は何となく理解できます。

一方で、"自殺"など自分にとってはまったく縁がないと考える人が殆どでしょう。

しかし"自殺"とは自らの意志で死ぬことであり、見方を変えれば、自分の周りにいる人が決して自殺をしないとは言い切れないのではないでしょうか。

本書は"自殺する人"ではなく、"自殺によって残された人"の心理を掘り下げた作品です。

特定の宗教観や倫理観に縛られることなく「自殺」といったテーマに向き合うことができるのは、小説の魅力の1つであるといえます。