異形の将軍―田中角栄の生涯〈下〉
上巻に引き続き、津本陽氏の「異形の将軍」のレビューです。
上巻では田中角栄の少年時代、徴兵され生死の境を彷徨った兵隊時代、そして青年実業家として成功してから有望な若手政治家として活躍する時期が書かれています。
下巻では、総理大臣の時代を含めて権力の中枢にいた時代が書かれています。
吉田茂は「あの男は刑務所の塀の上を歩いているようなものだ。ひとつちがえば内側へ落ちてしまうぞ」と田中角栄を評したそうです。
これは大学卒業といった学歴もなく、親から受け継いだ政治的な基盤を持たなかった田中角栄が、政治家の頂点に上り詰めるために大胆な方法で資金集めを行っていたことを意味します。
もちろん彼に政治家としての実力が備わっていることが前提になりますが、判断力や実行力に関しては、他の政治家の追随を許さないものがありました。
それをひと言で表せば、有能で清濁併せ呑む器量の大きさを持った政治家といえますが、それだけでは田中角栄という政治家を表すには充分ではなく、彼の背後には、1人の人間を超越したもっと大きなものが存在していたように感じます。
戦後の高度経済成長。
しかし、それは東京を中心とした太平洋側の都市を中心とした大都市の繁栄でした。
一方で冬には人の行き来もままならない日本海の雪深い新潟の町に生まれ、日本の繁栄の恩恵に預かることの出来ない無数の人びとの声を代弁した、悲願ともいえる目に見えぬ力が、彼を内閣総理大臣にまで押し上げた最大の要因ではないでしょうか。
さまざまな評価がありますが、彼が戦後を代表する政治家という評価は揺るぎません。
田中角栄を知らない世代にこそ、是非読んでもらいたい1冊です。