拳豪伝
武田 物外(たけだ もつがい)。
江戸時代後期から幕末にかけて活躍した曹洞宗の和尚であり、武道家として不遷(ふせん)流柔術の開祖でもあります。
怪力無双、かつ武芸百般に秀でており、京都壬生の新撰組駐屯地へ道場破りに訪れ、近藤勇を軽くあしらったという話や、綱引きで100人を相手に勝った話など、伝説的な逸話を残しており、拳骨和尚(げんこつおしょう)としても知られています。
150年前まで実在していた人物ですが、どこか戦国時代に生きた剣豪のようなスケールの大きな武道家です。
個人的に武田物外のイメージは、僧で怪力といったイメージから、水滸伝に登場する魯智深(ろちしん)と重なります。
本書は、そんな武田物外を主人公した津本陽氏の歴史小説です。
剣豪小説家として知られる津田氏ですが、合気道や柔術(本来この2つの源流は同じものですが。)といった武道家たちを描いた作品も幾つか手掛けています。
その迫力は剣豪たちの真剣勝負と遜色なく、武道に造形の深い著者ならではの作品に仕上がっています。
小説で描かれる物外は素朴で純情であり、僧として武道家として修行に明け暮れた彼の人生を殺伐としたものではなく、人間味溢れる物語として書き上げています。