レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

薩摩夜叉雛

薩摩夜叉雛 (文春文庫)

津本陽氏による幕末を舞台とした時代小説です。

はじめに本作を分り易く紹介するために、エッセンセスを抜き出してみます。

  • 主人公は薩摩藩で隠密として活躍する凄腕の美少年剣士"赤星速水"。
  • 彼は薩摩藩主・島津斉彬の落とし胤であるとの噂が。。果たしてその真相は?
  • 彼に隠密としての使命を与えるのは、維新の立役者の1人となる薩摩藩の西郷隆盛
  • 速水と行動を共にするは「人斬り半次郎」こと中村半次郎(桐野利秋)川路正之進(利良)といった豪華な顔ぶれ
  • 巨大な組織・幕府から送り込まれる刺客たちと次々と繰り広げられる死闘!!
  • マドンナは薩摩藩の女隠密・"以登(いと)"。果たして速水との恋の行方は!?
  • 陰謀渦巻く幕末の激動の時代。速水たちをピンチに陥れる裏切り者の正体は??

エッセンスだけを抜き出すと完全なスパイ小説です。

おまけに赤星は短銃(ピストル)の名手でもあり、刀だけでなく、時には銃を使って多くのピンチを切り抜けてゆきます。

剣豪小説、歴史小説家としての津本氏が自らのフィールドをベースに、新しいチャレンジを行った作品です。

ストーリー全体はスパイ小説としては定番ですが、よく練られており、津本氏が本領を発揮する決闘シーンは見ものです。

この作品は1年ほど連載されたようですが、ただ1つ残念なのは終盤のペース配分です。

400ページ以上に及ぶ長編ですが、宿敵・矢部宗介との最後の決闘シーンはわずか2ページという慌ただしさです。

連載小説ゆえの運命といえばそれまでですが、スパイ小説だけに終盤のシーンは陰謀を解明しつつ、宿敵との決闘をじっくりと読みたいというのが読者の心理です。

序盤から中盤にかけて充実しているだけに残念ですが、津本氏が一番多作だった時期に連載された作品であることもあり、ファンとしては批判するより大目に見るべきでしょう。