レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

月のしずく

月のしずく (文春文庫)

7つの作品が収めさられている浅田次郎氏の短篇集です。

  • 月のしずく
  • 聖夜の肖像
  • 銀色の雨
  • 瑠璃想
  • 花や今宵
  • ふくちゃんのジャックナイフ
  • ピエタ

力のこもった長編大作を読むのもよいですが、ここ数年の私にとって、ふと小説を読みたくなったときには浅田次郎氏の作品が定番になっています。

本作は浅田氏の短篇集の中でも男と女の恋を題材にした作品の割合が多く収められているのが特徴です。

収録されている作品は、どれも甲乙つけがたいのですが、1つ挙げるとすれば単行本の題名になっている「月のしずく」です。

主人公は中学を卒業して30年近くに渡り、地元のコンビナートで荷役(通称:蟻ン子)として働くタッさん。

独身で浮かれた話のないタッさんが、酔っ払って偶然に出会った女性へ恋愛をするといった"平凡なあらすじ"ですが、浅田氏の手にかかると浪花節の味わい深いストーリーになるから不思議です。

作品に登場する人物たちは、誰もが不器用で自分の気持ちをうまく伝えられない平凡な人びとです。

そんな人たちの日常の風景を切り取ったような題材が多いにも関わらず、大げさな表現や美辞麗句に頼らず、さりげなくシンプルに大切なものを読者に気付かせてくれます。

浅田氏は多くの長編小説を執筆していますが、彼の作品をこれから読んでみようという人は、ぜひ短篇集から読んみることをお薦めします。