本と戯れる日々


レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

本音で語る沖縄史

本音で語る沖縄史

長い縄文・弥生時代を経て大和朝廷の確立、そして貴族の時代へと移り変わり、さらに武士が台頭して幕府を開いては消えてゆく。

最後の武士政権である江戸幕府の終わりとともに近代である明治・大正・昭和へと突入してゆきます。

ひどく大雑把ですが、これが学校で学ぶ日本史の流れです。

しかし、この日本史は1つの視点にしか過ぎません。

つまり歴史が近代になってからも、教科書の日本史とは一定の距離を保ち続けた独自の歴史を持った地域がありました。

それが本書で取り上げられている沖縄地域です。

本書は仲村清司氏による沖縄の歴史教科書ともいえるものであり、先史時代から近代までを網羅した内容になっています。

人気のある戦国時代や幕末時代に相当詳しい人であっても沖縄の歴史を殆ど知らない人が多いように感じます。

それは著者自身も感じていることもあり、本書を執筆する動機にもなっています。

本書に記載されている沖縄の歴史を時代順に辿ると次のような流れになります。


  • 先史時代と神話
  • 三山時代
  • 第一尚氏の時代
  • 第二尚氏の時代
  • 琉球王国絶頂期と尚真王
  • 八重山征服
  • 島津の琉球入り
  • 江戸時代の琉球王朝
  • ペリー来航
  • 琉球処分
  • 沖縄戦


堅苦しい表現もなく沖縄の歴史をなるべく俯瞰して見つめようとする著者の姿勢には好感が持てます。

日本人として生まれたからには、自国の歴史の一部として沖縄史を学ぶことはとても意義のあることです。

もちろん本書だけで沖縄史のすべてをカバーすることは無理ですが、おおまかな流れを知るだけでも日本の内包する歴史・文化の多様性に気付くきっかけになります。

もちろん沖縄に直接足を運んで首里城博物館などでその歴史に触れることをお薦めしますが、そのための予習としても最適な1冊といえます。

暗殺のアルゴリズム〈下〉

暗殺のアルゴリズム〈下〉 (新潮文庫)

引き続きロバート・ラドラムの遺作「暗殺のアルゴリズム」をレビューしてゆきます。

スパイ小説の特徴といえば緊迫の潜入作戦、そして派手なアクションシーンが挙げられますが、もう1つ欠かせないものがミステリー要素です。

スパイ小説では秘密のベールに包まれた強大な組織が主人公に立ちはだかるといった構図が多く、さらに悪役のボスは姿を隠したがるものであり、はじめは手下や殺し屋を雇って主人公を葬り去ろうとするのです。

加えて本作では、敵の勢力へ敵対する勢力までが現れる始末で、主人公ベルクナップにとって第三の勢力が敵か味方であるのかも定かではありません。

その敵の正体も今回は少し変わっています。

普通であれば、敵国の政治的指導者、味方を裏切った諜報員、大規模な武器の密売を重ねる死の商人、巨大な麻薬組織など、ひと目で"悪"と分かるような組織が敵に回るものですが、今回はそのいずれでもありません。

少しネタバレしてしまいましたが、とにかくミステリー的な要素も充分に楽しめる作品に仕上がっています。

もちろん衝撃のラストも用意されており、今までのキーパーソンが一堂に会する場クライマックは見応え充分です。

なかなかの長編作品のためハリウッド映画のように手軽に楽しめるとまでは行きませんが、完成度の高いスリリングなスパイ小説であることは間違いありません。

暗殺のアルゴリズム〈上〉

暗殺のアルゴリズム〈上〉 (新潮文庫)

同じテーマやジャンルの本を読み続けてすこし食傷気味になった時、単純に気分転換をしたいときにスパイ小説を読みたくなることがあります。

そんな時に"ロバート・ラドラム"の作品を選んでおけば、まず間違いありません。

本書「暗殺のアルゴリズム」は2001年のラドラム没後に発見された遺作です。

ところが作品には最新のインターネット技術が盛り込まれ、晩年にも関わらず著者の好奇心旺盛な創作意欲には驚かされます。

つまり昔ながらのアナログなスパイ小説に留まることなく、常に最先端のスタイルへ挑み続けた著者の非凡な才能が垣間見れます。

主人公はアメリカ領事館作戦部の諜報員であるトッド・ベルクナップ

手だれの諜報員であるベルクナップは、ローマで武器商人を探索する任務を遂行します。

そして同じ頃ベイルートで、ベルクナップの先輩で命の恩人でもある諜報員・ジャレット・ライアンハートが作戦遂行中に拉致されてしまうという出来事が起こります。

仲間から猟犬とまで称されたベルクナップはわずかな形跡を頼りに拉致されたラインハート探索の捜査へ向かいます。

上巻からフルスロットルで繰り広げられるアクションと緊張した潜入捜査の数々は、ハリウッド映画のスクリーンさながらであり、やはり今回も期待を裏切りません。

ただし爽快な気分かといえば、そう単純ではありません。

ベルクナップの行く手を阻む敵の正体は見えず、ましてやその目的さえも定かではありません。。

謎はますます深まり、そして読者は更に物語へのめり込んでゆくのです。。。

東京の島

東京の島 (光文社新書)

以前に斎藤潤氏の紀行文「吐カ喇(トカラ)列島」を紹介しましたが、今回は近いようで遠い東京都にある島々(伊豆諸島・小笠原諸島)を紹介した本です。

日本の最南端は沖縄県、最東端は北海道と想像する人が多いと思いますが、実際にはそのいずれもが東京都です。

普段の大都会といったイメージとはかけ離れた東京の姿を知ることができます。

本書で紹介されている島は以下の通りです。

伊豆諸島
  • 大島
  • 利島
  • 新島
  • 式根島
  • 神津島
  • 三宅島
  • 御蔵島
  • 八丈島
  • 青ヶ島
小笠原諸島
  • 父島
  • 母島
  • 南島
  • 硫黄島
  • 沖ノ鳥島

小笠原諸島の代表的な島である父島までは23区内から1000km離れており、日本の最南端"沖ノ鳥島"に至っては、1700kmもの距離が離れています。

東京~沖縄間の距離が離れている無人島の沖ノ鳥島は例外だとしても、今も約2000人が住む父島さえも東京~鹿児島間の距離になります。

当然のようにこれだけの島を紹介すると、1つ1つの島に関してはページが限られますが、安易に観光スポットの紹介に走らず、島の特産や歴史に重点を置いている姿勢には好感が持てます。

また硫黄島や沖ノ鳥島
といった一般的に観光で訪れるこの出来ない島へのレポートも見応えがあり、本書を読むだけでちょっとした旅行気分を味わうことができます。

本書を読んで調べてみましたが、例えば父島へ行くためにの空路はなく、竹芝からフェリーで25時間かけての旅になるようです。つまりヨーロッパへ行くよりも時間のかかる東京都内の旅ということになります。

本音の沖縄問題

本音の沖縄問題 (講談社現代新書)

前回に引き続き、仲村清司氏の著書のレビューです。

エッセー風の作品と雰囲気が一変し、今回は沖縄の抱える問題に迫ったかなり真面目な内容になっています。

著者は大阪で生まれ育った"沖縄2世"という経歴を持っており、それがきっかけで沖縄へ興味を持ち、やがて移住するにまで至ります。

つまり純粋な"ウチナーンチュ(沖縄県人)"でも"ヤマトンチュ(沖縄以外の日本人を指す)"でもない、著者ならではの視点によって沖縄問題を客観的に分析する姿勢が印象に残る1冊でした。

在米軍基地の辺野古移転、技術的な不安を抱えるオスプレイ配備、さらには米海兵隊による犯罪など、日本中でこうしたニュースが毎日のように報じられています。

高い失業率と、全国で低い所得水準といった経済面でも多くの問題を抱えています。

それでも沖縄県以外に住む日本人が、"我が事"のようにこの問題を考えているとは到底思えない状況です。


例えば「日本は未だにアメリカに占領されている」と言われても、殆どの日本人は鼻で笑うでしょう。

しかし本書によれば、国土面積の0.6%にしか過ぎない沖縄県に日本全国の米軍専用施設面積の74%が集中しているのです。

県の2割近くの面積が米軍基地によって占められており、「現在も日本はアメリカに占領され続けている」と考えてしまう沖縄人が少なからずいても、少しも不思議ではないでしょう。

沖縄は基地で食っている」という批判に対しても、実際には本州の企業が基地関連の工事を受注している状況や、基地に使用されている土地の借用料が決して膨大な数字でないこと具体的に解説しています。

ちなみに"借地"という単語も正確ではありません。
元々は米軍が民間人より強制収容した土地なのです。

尖閣島や竹島、北方領土に関する問題、北朝鮮の拉致や安全保障に関する問題。

様々な国際問題を抱えていますが、国内問題と国際問題の両方の性格を持っている沖縄の諸問題に関しては最優先で取り組むべき課題です。

なぜなら沖縄が日本へ返還されてからすでに40年が経過し、多くの同じ国民が暮らしているにも関わらず、他の地域と比べて著しく不平等な状況が現在進行形で続いているからです。

本書の最後にあるコザ市の市長を16年間務めた、大山朝常氏へのインタビューも衝撃的な内容です。

彼は沖縄の日本復帰運動のリーダーを務めた人物ですが、その本人が晩年に祖国復帰運動を心の底から後悔しているといった発言をしています。

しかし本書をあらかた読み終えたタイミングでの氏の発言は、「あり得る」と思ってしまうほど内容の濃いものでした。


著者は1人でも多くの日本人に沖縄の抱える問題を知って欲しいという思いで本書を執筆したと思われますが、私自身も本書を読み終えて同じ気持にさせられた1冊です。

沖縄学―ウチナーンチュ丸裸

沖縄学―ウチナーンチュ丸裸 (新潮文庫)

大阪生まれの沖縄二世であり、作家・大学講師として活躍する仲村清司氏がエッセー風にウチナーンチュ(沖縄県人)の特徴や風土を紹介した1冊です。

以前ブログでも紹介した著者の「ほんとうは怖い沖縄 」はとても興味深い内容であり、強く印象に残っています。

そんな著者が紹介する沖縄本であれば間違いないという思いで本書を手に取りました。

結論から書くと、今回も期待を裏切らない内容でした。

私自身は雪国の出身であり、上京してから方言や食文化、細かい部分での生活様式の違いなど、その違いにしばしば気付かされた経験があります。

さらに関西や九州出身者との出会いを通じて、その違いをより鮮明に感じました。

しかし沖縄県人から見れば、沖縄県以外の日本の各地に住む人びとはいずれも"ヤマトンチュ"であり、彼らは同じ日本に住みながらも別民族であるような感覚を持っている印象があります。

もちろん古代には関東にまでアイヌ人が住んでいたことから、日本が単一民族国家でないことは明らかなのですが、本州より遠く隔てられている分、沖縄にはより独自の文化が保存・継承され続けていることを改めて感じさせられます。

"テーゲー主義"や"なんぎー"、"ウチナータイム"など、南国ならではのおおらかな文化、そして先祖含めた一族血縁の結束の固さ、もあい(模合)に代表される相互扶助の精神など、昔の日本に存在した文化を継承し続けている面もあり、まさしく沖縄は"チャンプルー精神"によって形成されています。

私の周りを見渡すと、やはりと言うべきか「沖縄=レジャー」といったイメージを持っている人が殆どです。

一方で、本書を片手に沖縄独自の文化を楽しむといった方法もあるのではないでしょうか。

私自身は泡盛が好きなので、お酒を通じて"ウチナーンチュ"を理解するというのも悪く無いと思います。

しかし表層的に方言や音楽をだけをなぞって"沖縄を理解した気"になるのは危険であり、やはり本当に沖縄を知るためには、その歴史を学ぶことも重要です。

著者の仲村氏は沖縄の歴史や、その歴史が抱える問題にも焦点を当てて精力的に執筆に取り組んでおり、次回はそうした本を紹介する予定です。

永遠の0

永遠の0 (講談社文庫)

放送作家、ノンフィクション作家として活躍した百田尚樹氏が2006年に発表した小説デビュー作品であり、累計170万部を突破した大ベストセラー作品です。

タイトル名にある"0(ゼロ)"とは、太平洋戦争における日本海軍の戦闘機・零戦(正式名:零式艦上戦闘機)です。

太平洋戦争開戦当初は、世界トップクラスの飛行能力を持った戦闘機として一躍有名になりましたが、その末期には特攻隊(正式名:神風特別攻撃隊)を象徴する"道具"としても広く知られています。

あえて"道具"と表現したのは、戦闘機は敵機を撃退してパイロットを無事に生還させることを前提に設計された乗り物ですが、特攻はパイロットの命を犠牲にして敵艦へ体当たりすることを目的とした、"十死零生(=生き残る可能性がない)"の作戦であり、それはもはや戦闘機とは呼べず、"人間搭載ミサイル"と表現するしかない兵器だからです。

ちなみに同じく太平洋戦争末期には、「桜花」「回天」といった正真正銘のミサイルに人を括りつけた特攻兵器も登場しました。

零戦に関してはノンフィクション、フィクション問わず様々な形で書籍化、または映像化された作品があります。

しかし特攻隊以外にも多くの兵士たちが戦場で壮絶な死を遂げていますが、なぜ特攻隊がクローズアップされることが多いのか?

もちろん先ほど挙げた生還を期待できない"十死零生"の使命を課せられた若い兵士たちが主な犠牲者だったという理由もあります。

更に理由を加えるとすれば、日本軍司令部の人命を軽視した愚劣な作戦と、祖国(もっと特定すれば自らの家族)を守るために迷いなく敵艦への体当たり作戦を敢行して散っていった命との対比が"悲劇"をいっそう際立てさせているともいえます。

本書の秀逸な部分は、フィクションでありながらも海軍(中でも特に戦闘機のパイロット)の視点を中心とした戦争の史実を巧みに織り込んでいる点です。

つまり戦争を知らない世代が小説として作品を楽しみつつも、教科書よりも詳細な戦争の経過を知ることができる優れた内容になっています。

これはノンフィクション作家として活躍した百田氏ならではの特徴が充分に生かされているといえます。

600ページ近くに及ぶ長編であり壮絶なストーリーが展開されますが、内容についてはここでは触れません。


今までも太平洋戦争や日中戦争をテーマにした本は何冊も読んでいますが、読めば読むほど、どんなに紙面を割いてもその悲しみや愚かさを語り尽くすことは出来ないことを実感します。

結論を言うと戦争を経験した人間にしか分からない世界になってしまうのですが、今の時代を担う人びとがその一端でも知ろうとする姿勢が、二度とこうした出来事を繰り返さないための唯一の方法なのかも知れません。

珍妃の井戸

珍妃の井戸 (講談社文庫)

浅田次郎氏が意欲的に手掛ける中国の清末時代を舞台とした歴史小説の外伝ともいえる作品です。

本編は「蒼穹の昴」、「中原の虹」といった作品が対象になりますが、本作では「蒼穹の昴」の登場人物たちが中心です。

光緒帝の側室である珍妃(ちんぴ)の死を巡って、イギリス、ドイツ、ロシア、そして日本の要人たちが、その謎を解き明かそうとするミステリー形式で物語が展開してゆきます。

浅田氏の清末時代シリーズでは、西太后をはじめ登場人物たちへ明確な個性と(歴史の表側から見えない部分での)役割を与えています。

外伝にあたる本作でもその設定はしっかりと受け継がれており、本編と一味違った雰囲気の中でもキャラクターの個性をしっかりと生かし、ファンたちを充分に楽しませてくれます。

逆に本編を読んでいない人にとっては魅力が充分に伝わらないと思いますが、それは"外伝"の性質上、仕方がないことかもしれません。

清末時代は、改革派と保守派の抗争、列強諸国による清への利権を巡る争い、義和団事件に代表される民衆の大規模な蜂起など、その混乱は日本の幕末を上回るものでした。

そうした困難な時代をそれぞれの立場と才覚で生き抜いた清末の当事者たちが何を伝えたかったのか。

しかもそれを伝える相手は自国へ対しての利権を狙う、いわば列強国の侵略者たちです。

珍妃殺害に関する証言が次々と変わり、深まる謎。

そしてその先にある衝撃の結末とは?

ぜひ本書を読む前に本編を読むことをお薦めします。

また本編を読んでいる人であれば、この外伝によってシリーズ全体の奥行きが広がります。

過去に「中原の虹」のレビューをしていますが、「蒼穹の昴」も読み返したタイミングで紹介してゆく予定です。

中原の虹 (1)
中原の虹 (2)
中原の虹 (3)
中原の虹 (4)

鉄道員(ぽっぽや)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

当ブログでも何作か紹介した浅田次郎氏の短篇集の1つであり、収録作品は以下の通りです。

  • 鉄道員(ぽっぽや)
  • ラブ・レター
  • 悪魔
  • 角筈にて
  • 伽羅
  • うらぼんえ
  • ろくでなしのサンタ
  • オリヲン座からの招待状

何といっても特筆すべきは、本作に収められている「鉄道員(ぽっぽや)」が直木賞を受賞し、浅田次郎氏が名実ともに日本を代表する小説家として認められた出世作であるという点です。

高倉健が主演の映画が大ヒットしたことを覚えている人も多いと思いますが、本作の中から他に2作品が映画化されており、1つの短篇集としては異例のことです。

ただ浅田氏の短篇集はどれも甲乙つけ難いほどに素晴らしく、本書に収録されている作品が特別優れているというわけではありません。

本作をはじめ浅田氏の作品には、しばしば幽霊をはじめとした怪奇現象、超常現象といったものが登場します。

浅田氏自身はそうした迷信を信じない性質であることを明言していますが、頻度や程度の差こそあれ、人は誰でも理論や偶然という言葉だけでは説明のつかない出来事に遭遇することがあるのではないでしょうか。

作品の登場人物たちは、いずれも平凡な人びとです。

そんな彼らに突然起こる小さな奇蹟の体験が、人生の転機をもたらします。

我々はともすると、「自分は退屈で平凡な人生を送っている」と感じている人も多いのではないでしょうか。

そんな私たちにも小さな奇蹟が訪れるかもしれず、それを信じることができるかどうかが豊かな人生の分かれ道なのかもしれません。