孤舟
渡辺淳一氏が定年を迎えた1人の男をテーマに描いた小説です。
大手の広告関係会社の役員にまで出世し、定年を迎えた威一郎。
輝かしい第二の人生の幕開けのつもりだったが、家にいる時間が長くなるにつれ妻との関係は険悪になり、打ち込むほどの趣味も持たない威一郎はやがて時間を持て余すようになり、少しずつ社会と疎遠になってゆきます。
何とも気の滅入るような設定です。
40年近く勤めた会社を定年し、子どもは数年前に独立している、まさしく団塊世代へ向けて書かれた作品ではないでしょうか。
威一郎のように大手企業の役員にまで昇り詰めた人物であれば、その半生を仕事一筋に捧げたといってもよいような日々を送り、会社での実績に裏打ちされたプライドを持っているであろうことは容易に想像できます。
私の周りの団塊世代と比べると、少し一般的ではないかも知れませんが、モデルケースとしては比較的リアリティを感じさせる内容になっています。
作品自体は最初から最後まで1本の線でつながっているため、読みやすい作品です。
しかし私自身に置き換えてみると、少し感情移入(=実感)はしずらいかも知れません。
それは順調であれば約40年にも及びサラリーマン人生の半分にも到達していないこともありますが、やはり経済成長と終身雇用制度が当たり前だった時代の企業戦士"がモデルであり、私が生きている時代とのギャップが大きいのです。
サラリーマンという鎧を脱ぎ捨てた後に何か残るのか?
最近では生涯現役という団塊世代の人たちも増えていますが、一方で定年を迎えたとたんに老けこんでしまう人もいるようです。
もちろん老後も含めて人生は人それぞれですが、本作品はそうした人びとへ向けて書かれた応援歌のような気がします。