レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

清水次郎長 幕末維新と博徒の世界

清水次郎長――幕末維新と博徒の世界 (岩波新書)

日本でもっとも有名な侠客・清水次郎長

幕末から明治前半にかけて活躍した山岡鉄舟を知っている人であれば、鉄舟を師と仰いだ侠客としても有名です。

本書はそんな清水次郎長の生い立ちから波乱に満ちた人生を終える74歳までを丁寧に網羅しています。とくに壮年期の活躍については、主に次郎長の養子である天田愚庵の著書「東海遊侠伝」を引用して紹介しています。

侠客の世界は幕府の法が及ばないアウトローな世界を中心に繰り広げられるため、歴史の表舞台で活躍した人と比べて記録自体が少ないのも事実です。

一方で、次郎長の生きた時代は幕末の動乱期とも重なり、侠客の世界に生きた次郎長も無縁ではいられませんでした。

次郎長の半生を語る上で、こうした時代背景を欠かせない要素として丁寧に解説してゆきます。

恐らく明治維新が無ければ"清水次郎長"の名前が歴史に刻まれることもなく、江戸時代に活躍した侠客の大親分の1人として記録されるに留まったでしょう。

講談での清水次郎長は義侠の代名詞であるかのように語られますが、実際に保下田久六黒駒勝蔵たちとの抗争は血を血で洗う凄惨なものであり、殺伐としたものであったことが本書から伝わってきます。

しかし次郎長が侠客としての腕っ節、度胸、そして生き残るための知恵に優れていたことは事実です。

本書は次郎長の生涯を史学的な視点で書いているため、それほど講談めいた逸話が収められているわけではありませんが、それだけに等身大の"清水次郎長"を感じられる1冊です。