レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

終わらざる夏 (下)

終わらざる夏 下 (集英社文庫 あ 36-20)

"戦争"は理不尽に人の命を奪いますが、国家間で行われるものである以上、特定の個人にすべての責任を帰すことはできません。

それだけに銃や戦闘機、戦車・・・そして最前線で死んでゆく兵士たちのみに焦点を当てても"戦争"の正体は捉えがたい、つまり小説という洗練された表現手法を介しても描ききることは不可能なもかも知れません。

実際の戦争体験談を基にしたノンフィクション、もしくは史実にベースとしながらストーリーを組み立てるフィクション小説といった読者へ伝わりやすい作品と比べると、本作品は多少分かりづらい側面があります。

それは戦火をくぐり抜けてきた歴戦の兵士をはじめ、突然赤紙で招集された新米兵士といった軍隊側から見た人たちの視点、そして残された家族たちや、空襲によって被害を受けた市民たちの視点、疎開した子どもたちや、それを引率する教師、さらには占守(シュムシュ)島を侵攻するソ連兵側からの視点といった、あらゆる角度で戦争を見つめているからです。

ひょっとすると、特定の人物(=主人公)の視点で物語が固定されていないため、ストーリーの中で次々と感情移入する対象が変わってゆくため、読んでいて疲れてしまう部類の作品なのかもしれません。

やがて1人1人の物語を支流として、占守島を舞台とした本流で合流してゆき、彼らの人生を決定付ける出来事へ繋がってゆきます。

まるで浅田次郎氏が1つ1つの物語を楽器のように巧みに指揮してゆく、オーケストラような組み立てであり、著者の意欲が伝わってきます。


戦争は悲惨だ。よって二度と引き起こしてはいけない」という言葉を鵜呑みにするだけでは充分ではありません。

同時に「戦争を引き起こすのは人間しかいない」のであり、その戦争に携わった人びとの大多数が、現代の我々と同じ感性と持った"普通の人たち"であったことを本書は諭しているのかもしれません。

読み終わって、はじめて物語のスケールの大きさに気付かされる作品であり、人によってさまざまな余韻が残る作品です。