レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

海のサムライたち

海のサムライたち (文春文庫)

多くの海を舞台とした歴史小説を手がけている白石一郎氏のエッセーです。

突然ですが日本は四方を海に囲まれているにも関わらず、誰もが挙げるような海戦の名将は少ないのではないでしょうか。

もちろん例外はあるものの、私なりに考えただけでも以下の理由が挙げられます。

  • 四方を海に囲まれているからこそ、権力の推移が外部の影響を受けない国内で行われ続けた。
  • 海を超えた隣国からの武力的な脅威に晒され続けた状態ではなかった。
  • 国内に充分な土地があり自給自足可能な状態であったため、海外へ進出する積極的な理由が見当たらなかった。
  • 江戸時代初期に始まった鎖国制度によって、政策的に海外との通商を制限された時期が長く続いた

しかし実際には、海で活躍したサムライが皆無だった訳ではありませんし、日本と海外との交易は常に行われ続けました。

そんなサムライたちにスポットを当て続けた白石氏の歴史小説は、新しい視点を読者に与えてくれる貴重な作品です。

本作は長年に渡って海洋歴史小説を書き続けた豊富な知識と知見で書かれた歴史エッセーであり、その内容も実に興味深いものです。

実際に本書に収録されている章を紹介します。

  • 藤原純友~古代の海賊王
  • 村上武吉~海上王国を築いた男
  • 松浦党と蒙古襲来
  • 九鬼嘉隆~織田水軍の総大将
  • 小西行長~海の司令官
  • 三浦按針~旗本になったイギリス人
  • 山田長政~タイ日本人町の風雲児
  • 荒木宗太郎~王女を嫁にした朱印船主
  • 鄭成功~日中混血の海上王
  • 徳川水軍と鎖国制度

どの章も期待を裏切らないレベルの高いエッセーです。

もちろん歴史学者としてではなく、作家・白石一郎氏の独自の視点で書かれていますが、著者の考えがよくまとめられており、その軽快な筆運びと説得力は、司馬遼太郎のエッセーを彷彿とさせるものがあります。

歴史ファンには必読の書といえるほど、お薦めしたい1冊です。