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高橋是清と井上準之助 - インフレか、デフレか

高橋是清と井上準之助―インフレか、デフレか (文春新書)

明治後半から昭和初期を代表する財政家であり、政治家でもある高橋是清井上準之助の軌跡を描いたノンフィクションです。

まずは分り易く2人の経歴をごく簡単に紹介してみます。


高橋是清

(1854 - 1936)
日銀副総裁、日銀総裁、6度の大蔵大臣、そして内閣総理大臣を経験。
インフレ政策の推進者財政の拡大方針をとったことで知られる。

井上準之助

(1869 - 1932)
2度の日銀総裁、そして2度の大蔵大臣を経験。
金解禁政策(=金本位体制)を提唱緊縮財政で知らられるデフレ政策の推進者として知られる。


経歴が似ているにも関わらず、政策の中身が対照的です。

もちろん財政政策は国際情勢や経済状況によって柔軟に行われるべきもので、一方の政策を賛美して、一方を貶めるものではありません。

日露戦争第一次世界大戦関東大震災、そして世界恐慌太平洋戦争へと続く満州事変という激動の中で日本財政の中枢部にいた2人は、まるで互いを補完し合うかのように歴史の表舞台に交互に登場して活躍します。

しかし芯の部分では、2人には共通している部分があります。
それは日本を世界の列強国へ押上げるため、政治家としての責任を果たそうとする姿勢です。

本質的には2人とも戦争行為は国力を著しく消耗するものであることを承知しており、軍部の政治介入や軍備拡大には反対の立場をとっていました。

そして2人とも命を狙われていることを承知しながらも自らの信念に従い政策を実行し続け、残念なことに右翼勢力の暗殺によって命を失うことまでも共通しています。

是清は「身を鴻毛の軽きに致す」、つまり国家のために一身を捧げて命を落とすのは少しも惜しくはないと生前語ったようですが、今の日本にもそれだけの覚悟を持った政治家が活躍してくれることを願いたいものです。