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習近平の密約

習近平の密約 (文春新書)

2012年3月に世界最大の人口を擁する中国の国家主席に任命された習近平

同時に独裁政党・共産党の最高位(中国共産党中央委員会総書記)、軍の最高指導者も兼任にしており、今後の日中関係に留まらず、世界の政情においてもキーマンといえる存在です。

しかしそれは、中国において習近平がすべての権力を握っていることを意味しません。

13億人の人口を抱える中国において共産党員は約9千万人であり、人口の10分の1以下です。

また共産党には元老院ともいえる存在があり、最長老の江沢民、表舞台から去ったばかりの胡錦濤たちが隠然たる力を持っています。

むしろ現時点では共産党内部における習近平の地位が盤石であるとは言いがたく、現在進行形で共産党指導部たちの面子、そして権力闘争が継続している状況であることを本書は生々しく伝えています。

例えば、最近も報道されている元共産党幹部・薄熙来(はくきらい)の裁判報道などは、たまたま共産党内部の権力闘争やイデオロギーの対立が一部表面化したものであるといえます。

本書は薄熙来の台頭、そして失脚についてはかなりの紙面を割いて言及しており、今の中国の姿を伝える本として参考になります。

それでも国家の核心的問題、分り易くいえば共産党の一党独裁の基盤を揺るがしかねない問題については団結して一切の妥協を許さないという姿勢を崩しません。

例えば尖閣諸島における領土主張、そしてチベット自治区における独立運動への徹底した弾圧などにその例を見ることができます。

中国四千年の歴史といわれますが、数々の群雄割拠の戦乱時代、他民族による支配など多くの遍歴を経て今に至っています。

一方で中国共産党の歴史は100年に満たず、革命家であり、政治家、思想家でもあった毛沢東の影響が今も色濃く残っているのが現在の中国であり、その矛盾が少しづつ表面化しつつあります。

ニュースや新聞で報道される情報は、国内で徹底的な報道規制を布いている中国共産党の一方的な内容が中心であり、それは中国が本来持っている多面性の1つでしかないともいえます。

過去、そして現在の習近平は独断専行型ではなく、調整能力に優れたバランス型の指導者であるといえます。

しかしひょっとすると、それは権力の中枢に上り詰め、地盤を固めるための仮の姿であり、彼が将来、強力な影響力を持ったときに同じような性格であることを保証していません。

それくらい中国共産党の内部は奥深く、そしてタイトルにあるように様々な密約によって運営されている国家であることを本書は伝えています。