レビュー本が1000冊を突破しました。
引き続きジャンルを問わず読んだ本をマイペースで紹介してゆきます。

武士道

武士道: いま人は何を考え、どう生きればいいのか (単行本)

明治時代の一流文化人であった新渡戸稲造が、外国の文化人へ向けて日本特有の精神「武士道」を解説した本です。

よって原書は英語で書かれていますが、本書は歴史研究家の奈良本辰也氏による訳本です。

西洋諸国がキリスト教に代表される"宗教"を通じて道徳を学ぶのに対し、一般的な日本人は「特定の宗教=道徳」とは考えません。

これは外国人から見れば考えられないことであり、新渡戸氏が日本人の道徳(善悪の区別)を学ぶ基準を「武士道」に置いて解説したものが本書です。

それには新渡戸氏自身が南部藩武士の子として生まれ、武士の幼少教育を受けたことも大きく影響しています。

文化人が文化人向けに執筆した明治時代の本だけあって、和訳されたものを読んでも決して易しい内容ではありません。

注釈を交えて、そして何度か読み直すことによってようやく少しずつ内容が吸収されてゆくといった種類の本だと思います。

私自身本書を何度か読み直していますが、そのたびに新しい発見があります。

世間には勉強方法を紹介したものから、ビジネスマン向けの経営や営業指南、老後のライフスタイルに至るまで、さまざまな本に溢れています。

しかし、そうした類の本の中から「人生の指針」のようなものを発見するのは困難なように思えます。

「武士道」を時代錯誤と批判することは簡単ですが、本書には日本人が先祖代々から受け継いできた「人としてよりよく生きてゆくための知恵」が詰まっており、現代においても日本人が日本人であり続けるための多くのヒントを得ることができます。

「武士道」の精神は、宗教のように聖典が存在するわけではなく、主に日常生活の中で口伝や実践という形で受け継がれたものです。

新渡戸氏はそれを「義」、「勇」、「仁」、「礼」、「誠」、「名誉」、「忠義」に分類して、豊富な古今東西の例を紐解いて武士道を体系的に解説しています。


著者の新渡氏はクリスチャンとしても知られていますが、それでもなお武士道を"人の道を照らし続ける光"として、この上なく大切な精神として位置付けています。

100年以上前に書かれながら、今なお現代に生きる日本人が読んでおくべき本の1冊ではないでしょうか。