殉教
今回で3回連続となる三島由紀夫氏の作品レビューになります。
1回目は長編小説、次に戯曲、そして今回は短篇集です。
三島由紀夫の魅力の1つとして、その幅広い作風が挙げられます。
もちろんその根底には一貫した"何か"が流れているのでしょうが、たとえば三島由紀夫を尊敬している作家・浅田次郎氏も作品ごとに色々な作風を使い分けているのもやはりその影響でしょうか。
本作品に収められているのは以下の9作品です。
- 軽王子と衣通姫
- 殉教
- 獅子
- 毒薬の社会的効用について
- 急停車
- スタア
- 三熊野詣
- 孔雀
- 仲間
もともと三島氏に明るくハッピーエンドになる作品は少ないのですが、一方で救いようのないほどの陰鬱としたイメージでもなく、どの作品にも共通の雰囲気が漂っています。
三島氏自身の死により自注は残っていませんが、あとがきで触れらているようにメモ書き程度のノートは残っており、そこからは"貴種"、"孤独"、"異類"といったキーワードを拾うことが出来ます。
一見して難解そうにみえる作品でも三島氏の自注は常に明確であり、それが例えキーワード程度のものでも、やはりそこから作品のテーマが見えてきます。
先ほど挙げた「貴種、孤独、異類」を反対の言葉「卑俗、集団、同類」と対比させてみると、どれも似たようなニュアンスを含んでいることに気付きます。
つまり本作品に登場する主人公たちは、常人と同じ地上に生きながらも、日常や大衆から隔離された原理の世界にいる人間と定義することができます。
そのため大多数の読者にとって、本作品の主人公たちへ感情移入することは難しいでしょう。
よって本作品は個人の嗜好で読むのではなく、形而上的に読んでみると楽しめます。
私自身、疑いようのない"俗物"であることを認めますが、それ故に作品から現実世界との鮮やかな対比が浮かび上がってくるのです。
これは子どもの頃にやはり現実世界とはかけ離れた童話を読むことによって、実際の人間社会を少しずつ認識してゆくのと似ている気がします。