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ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)

ローマ人の物語〈8〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(上) (新潮文庫)

文庫版「ローマ人の物語」は全43巻にも及ぶ長編大作ですが、のちに広大な版図を持つことになるローマ帝国1000年の歴史をひと通り網羅するのであれば、それが必要不可欠な分量になるということは納得できます。

その1000年以上に及ぶローマの歴史には数々の英雄が現れますが、「ローマ人の物語」ではユリウス・カエサル1人のために43巻中6巻もの分量を割り当ています。つまりローマ史においてカエサルには、それだけの価値と魅力があるのです。

本書ではカエサルの幼年期から追っていきますが、カエサルの6歳年上のポンペイウスが20代の頃より活躍した"早熟の天才"なのと対照的に、カエサルは40歳にしてようやく頭角を現す"大器晩成型"の人物といえるでしょう。

よってカエサルの幼年期や少年期にそれほど特筆すべきことはありませんが、その紹介の過程で古代ローマの一戸建ての間取り、教育、そして服装に至るまで、当時のローマの日常が紙面を割いて詳細に紹介されています。

我々日本人は中世や江戸時代の暮らしであれば歴史資料館で学ぶことができますが、本書には、こうした日本人にとって馴染みの少ない古代ローマの暮らしを紹介することで、作品の内容がより身近に感じられるよう配慮されています。

カエサルの幼年期から青年期の前半にかけては、マリウススッラが相次いで台頭した時代と重なります。

また青年期の後期は、ポンペイウスがスッラの後継者という形で絶頂期を迎えています。

その中でカエサルは、女性と借金についてのみ派手なエピソードで知られていました。

特にカエサルの借金については、30歳にして1300タレントという数字に登り、これは11万人以上の兵士を1年間まるまる雇える金額であったというから驚きです。

実績はともかく当時のカエサルが並大抵の人物でなかったのが分かるのは、この膨大な借金を抱えても平然としていたばかりか、更に借金を重ねるという行動に出たことです。

それほど名門でも裕福でもない家庭に育ったカエサルでしたが、金の使い方については大金持ちに生まれたクラッススやポンペイウス以上に心得ていたようです。

たとえばカエサルの借金の仕方として、次のような後年のエピソードがあります。

そこでカエサルは、大隊長や百人隊長たちから金を借り、それを兵士たち全員にボーナスとして与えた。これは、一石二鳥の効果をもたらした。指揮官たちは自分の金が無に帰さないためにもよく働いたし、総司令官の気前の良さに感激した兵士たちは、全精神を投入して敢闘したからである

また数多くいた愛人たちへ対しても高価なプレゼントを惜しまなかったということで知られています。

ともかく30代後半にしてカエサルは最高神祇官に就任し、ようやく人並みの出世をはじめたカエサルは、少しずつ反元老院(反スッラ派)の旗色を鮮明にし、はじめて政治的な主張を前面に押し出し始めるのです。